春のバラ園と満席のカフェ
甘い花の香りが満ちた5月の午後2時前、広大な植物園内のバラ園でのことだ。気温は22度と暖かく、満開のバラを背景に多くのカップルや家族連れが写真を撮っていた。私は日当たりの良いベンチに座り、三脚を畳みながら周囲を眺めていた。……その時、近くの洋風東屋の前で立ちすくんでいた女性が目に入った。
年齢は20代後半の品の良い女性。白いフレンチスリーブのブラウスに、ピンクのロングギャザースカートを穿いていた。足元は白いフラットシューズで、小さな革製のショルダーバッグを持っていた。最初は楽しそうにスマホでバラを撮っていたが、突然お腹を抱え込むようにして不自然に動きを止めた。
彼女の顔から、みるみるうちに血の気が引いていくのが遠目にも分かった。 立ち上がろうとした彼女だが、一歩を踏み出す瞬間にビクッと体を震わせ、内ももをすり合わせるようにして再び立ちすくんだ。 スカートの上から両手でお腹を強く押し当て、唇を強く噛みしめている。冷たい脂汗が額に浮かび、整った顔が苦痛で歪んでいる。間違いない、急激な腹痛と便意の波に襲われているのだ。
バラ園の公衆トイレまでは約300メートル離れており、しかも隣接するカフェのトイレは本日故障のため閉鎖されていた。一番近いトイレははるか正門の近くまで戻らなければならない。その絶望的な状況が、彼女を精神的にさらに追い詰めているようだった。 見てはいけないと思いつつも、彼女のスカートの下の震える脚と、漏れそうなのを必死で耐える不自然な前屈みの姿勢から目が離せなくなり、私の心臓はドクンと跳ね上がった。
便意の第ニ波が彼女を直撃した。 「うぅ……」と喉の奥で押し殺したような吐息が聞こえ、彼女はシューズの踵をカタカタと地面に打ち付けながら、お尻の筋肉を極限まで締め付けている。 同行者の男性が心配して声をかけるが、彼女は涙目で首を振るのが精一杯で、言葉を返す余裕すら失っているようだった。
ついに我慢の限界を迎えたのか、彼女は男性の制思(制止)を振り切るようにして歩き出し、お尻をかばうように極端な内股のまま、バラ園の奥にある鬱蒼とした生け垣の影へと長る(這う)ようにして駆けていった。 今でもバラの甘い香りを感じるたび、あの時の彼女の限界の表情と、生け垣の奥に消えていった必死の後ろ姿を思い出して胸がキュンとする。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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