巡回日誌・試験期の図書館前、深夜1時の女子学生の件
試験期間中、当大学の図書館は24時まで開館する。閉館後も構内に学生が残るため、警備の緊張感は増す。1月の深夜1時過ぎ、図書館周辺を順回中、正面玄関脇の植え込みの陰に白い光を発見。スマートフォンの画面と思われた。気温は3度まで下がっていた。
閉館後の残留学生と判断し接近したところ、植え込みの奥でしゃがむ女子学生(20代前半と思われる、コートを羽織ったまま体を丸めていた)を視認した。距離約8m。スカートの状態と姿勢から、用足しの真っ最中であることは明白だった。足元で水音が続いていた。あの音は、冷たい夜気の中で一層はっきりと聞こえました。
図書館のトイレは閉館と同時に使用不可となる。閉館まで粘って勉強した学生が、駅までの20分を耐えられなかったものと推察する。白い息が短く途切れ途切れに漏れているのが、寒空の下でよく見えた。時折、肩が震えるのが遠目にも分かり、寒さのせいか羞恥のせいか、こちらには判断がつきかねた。その体は、大きく収縮と弛緩を繰り返していました。膝が地面から数ミリ浮く瞬間も何度も見られました。
試験期の疲労が、その瞬間の全てを奪ったのでしょう。集中力、プライド、そして排尿を我慢する力。全てが同時に限界に達していました。彼女の頭は時折上がり、時折下がりながら、この屈辱の時間と格闘していた。
私は懐中電灯を消し、気付かなかった体で巡回経路を逆に戻った。これが正しい対応かは今も分からないが、大声で誰何して事態を悪化させるよりは良かったと考えている。彼女の尊厳を守ることは、時には「見ない」という選択肢なのだと学びました。
3分後に遠目で確認した際、学生の姿はすでになかった。日誌には「異常なし」と記載した。ただし所長には口頭で報告し、試験期のみ屋外トイレを1箇所開放する運用が翌年から始まった。私の7年間で数少ない、形になった仕事である。あの夜の水音と、彼女の白い息が闇に溶けていく様子は、今でも冬になるとふと耳の奥と目の裏に蘇る。誰にも見せるはずのなかった姿を見てしまった後ろめたさは、7年経った今も消えていない。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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