超高層ビルの閉じ込められたエレベーター
肌寒い十月の第二月曜日、午後五時すぎの都心の超高層オフィスビルでのことだ。三連休明けの慌ただしい夕方、エレベーターが突然のシステムエラーにより、十階と十一階の中間付近で急停止してしまった。狭いカゴの中には冷たい空調の風が吹き抜けるだけで、非常用電話からは「復旧まで三十分以上かかる見込み」という非情なアナウンスが響いていた。私と一緒に閉じ込められていたのは取引先の担当者二人だったが、その張り詰めた密室の中で、私の下腹部に鋭い便意の第一波が襲いかかった。打ち合わせ前に緊張から冷たいエナジードリンクを一気に飲み干してしまったのが完全に裏目に出てしまった。
私はその日、仕事用のシックなネイビーのスーツジャケットに、同素材のタイトスカート、そして薄手のストッキングと七センチの黒ヒールパンプスを履いていた。髪はハーフアップに整えていたが、腹痛の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗で額の生え際がじっとりと濡れ、前髪が額に張り付いて不快だった。顔からは完全に血の気が引き、鏡を見ずとも土気色になっているのが自覚できた。
密室内には同僚や取引先の人々がおり、絶対にドアが開かない鋼鉄の箱の中で、自分の生理現象を悟られることは耐え難い社会的羞恥心を伴う。この脱出不可能な檻が、私をカゴの隅に縛り付けていた。
便意は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、括約筋はすでに限界値に達していた。タイトスカートの中で両腿をぎゅっと交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐えた。パンプスのつま先に全体重をかけ、カカトを交互にせわしなく上下させながら、お尻の括約筋を極限まで締め付けた。お腹の中で泥水が渦巻くような蠕動運動が起こるたび、私は思わず「くっ……」と声を漏らしそうになり、上体を深く折り曲げてビジネスバッグを強くお腹に押し当て、指先が白くなるほど強く爪を立てた。「あと十分、扉が開くまで……」と狂ったように秒刻みの計算を繰り返し、祈り続けた。
恥づかしさと、この密閉空間で漏らしてしまうのではないかという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。自分の限界の太も目の震えと、タイトスカートが不自然に揺れるスリルの中で、心臓は早鐘のように脈打っていた。
三十分後、ようやくエレベーターが最寄り階に臨時停止して扉が開いた瞬間、私は周囲の視線を振り切ってお尻をかばう極端な内股の姿勢で飛び出し、多目的トイレへ滑り込んだ。便座に腰を下ろし、すべてが一気に放出された瞬間の凄まじい解放感は、今でもエレベーターの起動音を聞くたびにあの日た冷や汗と股の奥が疼く恐怖を思い出させる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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