河川敷の草むらで、犬の散歩の人が来たあの三分間
金曜の深夜一時、残業帰り。あの公園の夜から、私は遠回りして帰るようになってしまった。まっすぐ帰る道より、少しだけ遠い道を選ぶこと。それが自分でも気づかないうちに、習慣という名の秘密になっていた。
その日は多摩川の河川敷を選んだ。土手の下の草むらは腰の高さまで茂っていて、川の音が世界の音を全部消してくれる。会社を出た時からもう予感はあった。膀胱の奥に居座る重みを抱えたまま、私はいつものように奥まで分け入って、スカートをたくし上げてしゃがんだ。夜の川面に、対岸のマンションの灯りが揺れている。風が草を撫でる音が、まるで誰かの吐息のように聞こえた。
出はじめた瞬間の、あの体の芯がゆるむ感じ。開放されるのは膀胱じゃなくて、たぶん一週間分の私自身なのだと思う。会議室での愛想笑いも、上司の小言も、満員電車で押し潰された自尊心も、全部いっしょに流れていくような気がする。
――そのとき、土手の上に懐中電灯の光が見えた。犬の散歩の人だった。光がゆっくりこちらの草むらの方へ振られる。心臓が凍った。出しかけを止めようと下腹に渾身の力を込めたけれど、体はもう言うことを聞かない。止めれば止めるほど、逆に奥からせり上がってくるものがあって、私は声にならない声を喉の奥で殺した。
でも、出ているものは止まらない。私は息を殺して、草の中で完全に静止した。じょろじょろという音だけが、自分の耳には花火みたいに大きく響く。太ももの震えが止まらない。光が茂みのすぐ手前で止まった気がして、私は目を閉じ、心の中で数を数えた。十、九、八――終われ、終わって、お願い。犬が一度こっちを向いて、ふん、と鼻を鳴らした。飼い主が「どうした?」と犬に声をかける声が、思いのほか近くに響く。私は完全に息を止めた。
永遠みたいな三分間だった。時間の感覚がおかしくなって、自分がまだ出し続けているのか、もう止まっているのかすら分からなくなる瞬間があった。光は結局、川下の方へ流れていった。犬の足音と飼い主の靴音が遠ざかっていくのを、私は草の匂いの中で確かめた。
全部出し切った瞬間、安堵と快感が同時に背骨を駆け上がって、私はしばらく草の中で動けなかった。膝が笑っていて、立ち上がるのに時間がかかった。手のひらに草の露が冷たく残っていた。
怖かった。怖かったのに、帰り道の足取りが妙に軽かったのはなぜだろう。心臓はまだ早鐘を打っているのに、口元だけが緩んでいる。土手を上りながら振り返ると、犬の散歩の人の姿はもうどこにも見えなかった。何事もなかったかのような静かな河川敷が、月明かりの下に広がっているだけだった。
家に着くまでの道すがら、私は何度も自分に問いかけた。見つかっていたら、どうなっていただろう。想像するだけで背筋が冷たくなるのに、同時にあの三分間の緊張感がやけに鮮明に体に残っていて、離れてくれない。私はたぶん、もう戻れない所まで来ている。次はどこにしようか、なんて考えている時点で、もう手遅れなのだと思う。それでも懲りずに、また同じ河川敷の草むらを探してしまうのだろう。
― この話は、これにて ―
この話を評価する
平均 3.7(144件)
※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
この話の続きは映像で——野ション・野外放尿の実写作品を価格比較

【アヘ顔炸裂!白目もカワイイ!ひまりちゃん】放課後に自撮り露出する優等生J系を見つけたので… 小坂ひまり
最安 780円〜

放尿露出 露出した場所に記録を残すお漏らしマーキングデート なな(24) 前乃菜々
最安 2,480円〜

ノーブラ新宿徘徊マゾ犬お散歩デート
最安 2,180円〜
価格比較・レビューは姉妹サイトPeeSearchで(PR・アフィリエイトリンクを含みます)
「月夜のジョウロ」の他の話
雨上がりの遊歩道、水たまりをひとつ増やした夜
六月の終わり、雨が上がったばかりの深夜零時半。緑道の遊歩道は濡れたアスファルトが街灯を映して、ずっと先まで光の帯になっていた。こんな夜は、歩いているだけで胸の奥がすうすうする。雨上がり特有の、土と緑と少しの黴の匂いが混じった空気を吸い込むと…
氷点下の深夜、白い湯気が立ちのぼるのを見たくて
一月の半ば、都心でも氷点下になった夜。忘年会も新年会も終わって、残業だけが平常運転で残った深夜一時半。息が白い。マフラーに顔を埋めて歩きながら、私はもう、今夜どこでするかだけを考えていた。オフィスを出た瞬間から、頭の中の地図には公園と緑道と…
いつもの公園が使えなかった夜、私はマンションの五歩手前で負けた
これは失敗の記録。十一月の木曜、深夜一時。その日はいつもの公園に先客がいた。ベンチで若いカップルが語り合っていて、私の秘密の植え込みは使えない。仕方なく素通りした。次の候補の緑道は、街灯の交換工事で作業員さんが数人。夜の街は、いつも味方をし…
深夜二時、住宅街の公園で、私は初めて空の下でしてしまった
最初の夜のことは、たぶんずっと忘れない。 水曜日、終電を逃してタクシー代をけちって歩いた深夜二時。定時を三時間も過ぎてから飲んだ緑茶のペットボトル一本が、こんなにも私を追い詰めるとは思わなかった。家まであと十五分という所で、昼から我慢してい…
関連する話
【観測記録・春】上野公園の満開の下、宴会集団から出た限界個体の記録
4月2日、上野恩賜公園。晴れ、風弱し。ソメイヨシノは満開を2日過ぎた頃で、園内は夕方の時点で既に飽和状態であった。私の定点は噴水広場寄りのベンチ。ここは公衆トイレへの動線が交差する要衝であり、観測には最適である。花びらが夕風に乗って絶えず舞…
【観測記録・秋】ハロウィン渋谷、ゾンビメイクの女性が本物の緊急事態になるまで
10月31日、渋谷センター街周辺。晴れ、夜間気温15度。ハロウィン当夜の渋谷は、観測者にとって年間最大のフィールドである。ただし近年は規制強化で路上飲酒が減り、事例数は減少傾向にある。それでも仮装した成人たちの密度は相変わらず高く、路地とい…
夏フェスのトイレ百人待ちとか無理。森でしてきた女の言い分
てかさ、夏フェスのトイレ問題どうにかならんの?って毎年言ってるんだけど。去年の山のフェス、昼のピークで仮設トイレ百人待ちなんよ。百人て。推しのステージ三十分後に始まるのに並んでたら人生終わるじゃん。 しかもうち、その時点でもう下腹やばくてさ…
クラブ帰り朝四時、路地でしゃがんでたらパトカー通ってガチで終わったかと思った
先週の土曜、渋谷のクラブでオールした帰りの話きいて。朝四時、テンションおかしいまま友達と道玄坂下ってて、うち、テキーラのあとに水がぶ飲みしたから膀胱がもう爆弾なんよ。フロアで踊ってる間はアドレナリンで気づかんかったけど、外の冷たい空気に当た…