音楽フェスの仮設トイレ、50分待ち列で起きた連鎖崩壊
夏の野外フェスでの話。炎天下、仮設トイレの待機列は50分待ちの表示が出ていた。日差しが強く、地面から立ち上る熱気で列全体がだらけていた。気温は35度近く、みんなタオルを首に巻いてぐったりしていた。
俺の前には20代くらいの女性二人組。フェスTシャツにショートパンツ、日焼け止めでべたついた肌。片方はさっきから明らかに様子がおかしく、友達の腕を掴んでずっと足踏みをしていた。「ね、あとどれくらい?」「まだ20人はいるよ」「無理かも」「頑張って」という会話が何度も繰り返される。額には玉のような汗、日焼けした頬がさらに赤みを増していく。時折お腹のあたりを両手で押さえ、体をくの字に折る仕草を見せた。友達が水を差し出すと「今は無理、飲んだらもっとヤバい」と首を振る様子に、深刻さが伝わってきた。
限界というのは連鎖するらしい。列の少し前で、男が突然列を離れてフェンスの方へ走った。それを見た瞬間、前の女性の中で何かが切れたのだと思う。目が一瞬泳ぎ、それから何かを覚悟したような表情に変わった。「私も無理!」と叫んで、彼女は柵の裏の茂みへ走っていった。友達が「え、ちょっと!? マジ!?」と追いかける。腰を落として走る後ろ姿に、周りの誰もが一瞬目を奪われていた。
数分後、戻ってきた彼女はどこかすっきりした顔をしていて、友達に「人間やめた」とだけ言った。友達は「おかえり、人間」と返していた。二人で顔を見合わせて笑う様子に、こちらまで肩の力が抜けた。羞恥よりも解放感が勝ったのか、彼女の足取りは来た時より軽くなっていた。周りで見ていた他の列の人たちも、どこか温かい目でその光景を見守っていたのが印象的だった。
フェスの高揚感というのは、人間の羞恥心のハードルを確実に2段階くらい下げる。あの夏、俺は色々なものを見た。あの女性の吹っ切れた表情と、乾いた笑い声だけは、今でも鮮明に思い出せる。あの日差しの強さと熱気ごと、記憶に焼き付いている一幕だ。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
この話は掲示板より発掘・再構成したものです。出典: フェス・野外イベント板
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