閉店後の路地、うちの常連さんが電柱と親友になってた夜の話
スナックのママを20年やってるとね、お客さんの限界っていうのが顔で分かるようになるのよねぇ。この話はうちの上連さん…あら、常連さんね、変換がおかしいわ。若い頃からずっと通ってくれてるお客さんのね。
その常連のTさん(仮名・56歳)の話。金曜の夜、Tさんはボトル半分空けてご機嫌だったの。饒舌になって、いつもより声も大きくて、頬も赤くなってね。カラオケも2曲サービスしちゃったくらい。0時前にお会計して「ママ、また来週ね」って出てったのよ。でも目がちょっと危ないなと思ってたのよ。その時点で既に、彼の膀胱は限界に達していたんだと思うわ。
1時に店を閉めて、裏の路地を通って駐車場に向かったらね。いたのよ、Tさんが。路地の電柱に片手をついて、もう完全に放水中。50過ぎのおじさんが電柱と親友みたいに寄り添っちゃって、肩を震わせながら安堵の息を漏らしてるのが暗がりでも分かったわ。街灯の明かりに背中が浮かび上がって、なんとも言えない光景だったのよねぇ。その音も、店の喧騒からは想像できないほどの豪快さで。
うちの店のトイレ、出る前に「寄ってく?」って聞いたのに「大丈夫大丈夫」って言ったのよあの人。その言葉から本当に10分もしないうちにこの有様。男の人の「大丈夫」ほど信用できないものはないわねぇ。あたしは見なかったふりして反対側の道に回ったわ。だってお互い気まずいじゃない。足音を立てないように、そっと。ヒールの音が響かないよう、爪先立ちで歩いたくらいよ。一歩一歩、慎重に。
でも次の週にTさんが来た時、お手洗いのドアに「お帰り前にぜひ」って貼り紙しといたら、Tさん、あたしの顔見て一瞬固まって、それから黙ってトイレ入ってったのよねぇ。バレてるのよ、全部。ママは夜の路地のことも知ってるのよ。それでも変わらず通ってくれるのが、この商売の面白いところ。今夜もTさんの席は空けてあるわ。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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