おしゃれバルでの試練
春の夜9時頃、薄暗い照明が雰囲気の良いワインバルでのことだ。私は友人とカウンター席で飲んでいたが、少し離れたテーブル席に座る男女の様子がふと気になった。デート中らしき二人は楽しげに話していたが、徐々に女性の様子に異変が生じ始めていた。
……その時、彼女が席を立ち、店の奥のトイレへと歩き出した姿が目に入った。
彼女は20代後半のOL風で、上品な白いワンピースに薄ピンクのカーディガンを羽織っていた。髪は緩く巻いておろしており、ヒールの高いパンプスを履いている。
歩き方が明らかに不自然だった。
一歩を踏み出すたびに、お尻の筋肉を固めるようにして、腰を少し落とした姿勢で歩いている。トイレの前に到着した彼女だったが、無情にも「使用中」のランプが灯っていた。彼女はハッとしたように足を止め、その場に棒立ちになった。
彼女の顔はみるみるうちに蒼白になり、お腹をさするように両手でドレスを掴んだ。
便意の第二波が来たのか、彼女は壁に肩を預けるようにして身を寄せ、内ももを強くすり合わせた。パンプスのつま先が細かく震え、苦しげに唇を噛みしめているのが遠目からでもはっきりと分かった。デートの相手にこんな姿は見せられないというプライドが、彼女をさらに追い詰めているようだった。
見てはいけないと思いつつも、私はワイングラスを握る手に力が入り、彼女の限界の表情に釘付けになっていた。
ようやく扉が開き、彼女は滑り込むように中へ消えていったが、その瞬間の少し引きずるような足取りが忘れられない。
今でもあのワインバルに行くたび、上品なワンピースを着た彼女が壁際で耐え忍んでいたギリギリの光景を思い出して胸が熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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