排泄物語

閉校後の添削残業、ビルのトイレが施錠されていた夜

投稿者: 赤ペンの残業1分で読めます閲覧 3,3044.0(23件)

個別指導塾で講師のバイトをしている大学院生です。うちの塾は雑居ビルの3階で、トイレはビル共用のものを借りる形…という訳でして、これが今回の悲劇の舞台です。その舞台で起こった出来事は、私の人生観を少なからず変えました。

生徒さんが全員帰った後、講師と教室長だけで残って翌週分の添刻をするのが毎週金曜の恒例なのですが、その日は演習プリントの直しが多くて、気づけば夜11時前でした。そこまでは、いつもの金曜と変わりませんでした。さて帰る前にお手洗いへ、と廊下に出たら、共用トイレの扉に鍵がかかっているのです。心臓が一瞬止まるかと思いました。その停止は、まるで時間が止まるような感覚でした。

ビルの管理人さんが11時前に施錠して帰ってしまったらしく…。教室長は先に帰っていて、残っているのは私一人。膀胱は帰り支度を始めた途端に自己主張を強めるもので、駅までの徒歩8分が急に果てしなく思えました。その8分が、永遠の距離に感じられました。エレベーターの中で膝を合わせながら、何度も時計を確認していました。時計の秒針が、妙に遅く感じられました。

結局、駅前のファストフード店に飛び込んで、レジで一番安いポテトを注文してからお手洗いに駆け込みました。「一番安いのください」という言葉は、その時点で「早くしてください」という意味でした。個室の鍵をかけた瞬間の安堵と、少し情けない気持ちが同時に押し寄せてきました。私は何のために残業をしていたのだろうと考えました。その問いの答えは、その夜も、翌日も、見つかりませんでした。

時給は出ますがトイレは出られない、という訳でして。以来、金曜は10時半に一度お手洗いに行くのを自分ルールにしています。あの夜のポテトは、正直あまり味を覚えておりません。その味のなさが、その時の切実さを物語ってます。

― この話は、これにて ―

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掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

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