排泄物語

帰り際、ビル裏の駐車場で女性教室長を見てしまった話

投稿者: 赤ペンの残業1分で読めます閲覧 8344.5(4件)

前回書いた通り、うちの塾の入る雑居ビルは夜11時前に共用トイレが施錠されます…という訳でして、被害者は私だけではなかったようです。その被害のスケールは、私の想像をはるかに超えていました。

2月の金曜、閉校後の教室で私ともう一人の講師(社会人の男性です)が添刻を終えたのが11時過ぎでした。教室長(40代の女性、いつも落ち着いた紺のスーツ姿で、生徒からも信頼の厚い方です)は「戸締まりしとくから先にいいよ」と言うので、お先に失礼しました。ビルの裏手に月極の駐車場があり、私の帰り道はそこを抜けるのが近道なのです。その近道が、この話の舞台になってしまいました。

街灯の切れた一角で、車と壁の隙間に人がしゃがんでいるのが見えて、酔っ払いだったら嫌だなと足を速めた瞬間、コートの背中に見覚えがあることに気づきました。心臓がどきりと跳ねました。教室長でした。その瞬間、全ての事情が一度に理解されました。

しゃがみ込んで、その、明らかにお手洗いを済ませていらっしゃる最中で…。トイレが施錠された後、戸締まりまでして限界だったのだと思います。その判断は、教室長としての職責と、個人の身体の必要性の折り合いの結果でした。息を殺している気配が伝わってきて、私も思わず息を止めておりました。私は気配を殺して駐車場を斜めに横断しました。その横断の距離は、100メートルにも感じられました。

月曜、教室長は何事もなかった顔で「金曜はお疲れさま」と言い、私も何事もなかった顔で「お疲れさまでした」と返しました。ただ目を合わせた一瞬、お互い何かを察したような、そんな空気がありました。その空気の中に、大人同士の暗黙の了解がありました。

大人の職場とはそういうものです…という訳でして、ビルの管理会社には誰か苦情を入れてほしいのです。この話が、誰かの声なき声の代弁になれば幸いです。

― この話は、これにて ―

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掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

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