彼女が旅行先の渋滞で「もうダメ」と泣いた話【本人許可済】
去年のGW、彼女(25)と伊豆へドライブ旅行に行った帰りの話。夕方の東名が事故渋滞で完全に止まった。カーナビには「渋滞18km、通過に約90分」と非情な表示が出ていた。
彼女は昼に食べた海鮮丼と一緒に冷茶をがぶ飲みしていて、渋滞にハマって30分ほどで「ちょっとトイレ近いかも」と言い出した。次のSAまで12km。車は1時間で2kmしか進まない。花柄のワンピースの裾を軽く直しながら、最初は「まあ大丈夫でしょ、余裕余裕」と笑っていた。日焼けした頬とショートボブがよく似合う、普段は気の強いタイプの彼女だった。
1時間後、彼女は笑わなくなった。助手席のシートの上で正座になり、両手を膝の間に挟んで、目を閉じて何かに耐えている。エアコンの音だけが響く車内で、時々「んっ……」と小さな声が漏れる。頬がうっすら上気しているのが、ハザードランプの反射でも分かった。時折体をくの字に折り、下腹を押さえるようにして深呼吸を繰り返す。「あと何キロ?」「まだ8キロ」「うそ、無理かも」というやり取りが、次第に間隔を狭めていった。
「ペットボトルある?」と聞いたら「そんなの無理!」と涙目で怒られた。でもその10分後、彼女の方から「……さっきの、まだある?」と蚊の鳴くような声で聞いてきた。プライドと限界が、彼女の中でせめぎ合っているのが手に取るように伝わってきた。膝を擦り合わせ、時折腰を浮かせては座り直す仕草が、もう限界が近いことを物語っていた。
結論から言うと、間に合わなかった。ボトルの準備をしている最中に、彼女は「あ、や、ちょっと待っ……」と言ったきり体を強張らせ、デニムの色がゆっくり濃くなっていった。シートに広がる温かさと、車内に満ちる匂い。彼女は両手で顔を覆って本気で泣いた。「うそ、うそ、なんで」と何度も繰り返す声が、狭い車内に響いていた。
情けないやら愛おしいやらで、こちらまで胸が詰まった。今では二人の間の鉄板ネタになっている。この話を投稿することも、本人の許可を得ている。「どうせなら盛大に書いて」とのことだった。あの日の渋滞の赤いテールランプの列と、彼女の泣き顔を、今でも時々思い出す。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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