満席の映画館と消え去ったスクリーン
冷たい雨が降る十二月の金曜日、午後七時すぎの都心の映画館でのことだ。大ヒット上映中の話題作の特別公開日ということもあり、シアター内は超満員で身動きが取れない状態だった。私は中央の座席に座っていたが、私の隣の席に座っていた女性の様子に微かな異変が生じたことに気がついた。……その時、彼女の不自然な仕草が目に入った。
彼女は二十代後半の非常にスマートなOL風の女性で、黒のタートルネックニットに、タイトなカーキ色のペンシルスカート、薄手のストッキングとヒールパンプスを履いていた。髪はきれいに整えられ、上品なハンドバッグを持っていたが、その首筋にはだらだらと冷や汗が流れ落ち、ニットの襟元を濡らしていた。
彼女は突然、抱えていたポップコーンのバケツを床に置き、両手でスカートの上から下腹部を強く押し当てるようにし始めた。ペンシルスカートの中で、ストッキングを履いた内ももをこれでもかと密着させ、両膝を左右に激しくもじもじと擦り合わせいる。上映前にロビーで購入した冷たいドリンクを一気に飲み干したのが完全に裏目に出たのだろう。顔面は完全に血の気が引いて白くなり、綺麗に施されたメイクは冷や汗で崩れ、マスカラが滲んで目の下が暗くなっているのが見えた。
映画の最中であり、両隣にも乗客がギッシリカ詰まっているため、立ち上がって退席すれば全員の迷惑になるという強烈な社会的圧力が、彼女を座席という檻に縛り付けていた。彼女は奥歯を噛み締め、時折「はぅ……っ」と熱く荒い吐息を漏らし、腰を低く落としてお腹を抱え込むようにして必死に耐えていた。
見てはいけないと思つつも、彼女のタイトスカートの裾から伸びる、がくがくと震える太も目の動きと、限界の仕草から目が離せなかった。私の心臓はうるさく鼓動を刻み、喉の渇きを覚えるほどだた。彼女はパンプスのヒールを床にカツカツと不自然に響かせ、お尻の筋肉を極限まで締め付けていた。
本編の終盤、彼女はついに限界を迎えたのか、「すみません……」と掠れた声を漏らし、涙目でカバンをお腹に押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げながら、すり足のような奇妙な歩幅で通路へと這い出していった。今でも映画館の暗闇に入るたび、あの時の彼女の限界の震えと、漂っていた焦燥の気配を思い出して胸がゾクゾクと熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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