冬の八ヶ岳登山と凍りついた急斜面
凍てつくような一月の第一土曜日、午前十一時すぎの八ヶ岳の登山道でのことだ。周囲は白銀の世界で、標高二千メートルを超える稜線は強風が吹きすさび、気温はマイナス十度以下まで低下していた。私は登山ガイドに同行して岩場を登っていたが、登山開始前に山小屋で温かいココアを何杯も飲み干したのが完全に災いし、下腹部の奥深くで鋭い尿意の第一波が突き刺さるように走った。
私はその日、高機能な赤い登山用マウンテンパーカーに、タイトな黒の防風トレッキングパンツ、そして厚手のウールソックスに重い登山靴を履いていた。髪は後ろで一本に結んでニット帽を深く被っていたが、尿意の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗のせいで首筋がじっとりと濡れ、インナーの襟元が皮膚に張り付いた。綺麗に整えていたはずのファンデーションが脂汗でじわじわと浮き上がり、マスカラが滲んで涙目のようになっているのが自分でもはっきりと分かった。
この急峻な岩場と凍結した登山道では、途中で立ち止まることすら転落のリスクがあり、ガイドや他の登山客に生理現象で限界を迎えていることを悟られたくないという強烈な社会的羞羞心が、私を一本道の登山道という名の檻に縛り付けていた。
尿意は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、膀胱は限界の痛みを主張し始めた。私はパンツの中で両腿をぎゅっと交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐えた。登山靴のつま先に全体重をかけ、お尻の筋肉を極限まで硬直させて尿道の栓を守っていた。一歩踏み出すたびに下腹部に響く衝撃に耐えながら、「あと十分、次の避難小屋に着くまで……」と頭の中で必死に計算を繰り返すが、焦りで頭が真っ白になった。
恥ずかしさと、この雪山の中で漏らしてしまうのではないかという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。自分の限界の太も目の震えと、パンツの生地が不自然に揺れるスリルの中で、心臓は早鐘のように脈打っていた。
避難小屋に到着した瞬間、私はお尻をかばう極端な内股の姿勢で小屋の簡易トイレへと駆け込んだ。便座に腰を下ろし、温かい液体が一気に放出された瞬間の凄じい解放感。今でも雪山の冷たい風を感じるたび、あの時の冷や汗と股の奥がすくむような恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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