週末のデパートのエスカレーター
ジメジメとした六月の金曜日、午後五時すぎの新宿の有名百貨店でのことだ。週末の買い物客で館内は大変混雑しており、フロアを結ぶ長いエスカレーターには人々がぎっしりと並んでいた。私は上のフロアへ移動するためにエスカレーターに乗っていたが、目の前にいた女性の様子に微かな異変が生じたことに気がついた。……その時、彼女の不自然な仕草が目に入った。
彼女は三十代前半の上品な奥様風の女性で、上質な薄ピンクのシルクブラウスに、白いロングプリーツスカート、そして薄手のストッキングに茶色のフラットシューズを履いていた。髪はハーフアップできれいに整えられ、高級ブランドのハンドバッグを持っていたが、その首筋にはだらだらと冷や汗が流れ落ち、ブラウスの襟元を濡らしていた。
彼女は突然、ハンドバッグを両手で強く抱え込み、それを下腹部を押し潰すように強く押し当てした。プリーツスカートの中で、ストッキングを履いた内ももをこれでもかと密着させ、両膝を左右に激しくもじもじと擦り合わせいる。ランチに食べたスパイスの効いた料理が、このタイミングで急激な腹痛を引き起こしたのだろう。顔面は完全に血の気が引いて土気色になり、綺麗に施されたメイクは冷や汗で崩れ、マスカラが滲んで目の下が暗くなっているのが見えた。
エスカレーターはゆっくりと昇るだけで、途中下車は絶対にできないという絶望的な状況と、周囲に他の客が密集しているという強烈な社会的圧力が、彼女を極限の精神状態へと追い詰めていた。彼女は奥歯を噛み締め、時引「はっ……ん……」と熱く荒い吐息を漏らし、腰を低く落としてお腹を抱え込むようにして必死に耐えていた。
見てはいけないと思つつも、彼女のスカートの裾から伸びる、がくがくと震える太も目の動きと、限界の仕草から目が離せなかった。私の心臓はうるさく鼓動を刻み、喉の渇きを覚えるほどだた。彼女はシューズのつま先をエスカレーターのステップに強く押し付け、お尻の筋肉を極限まで締め付けていた。
上のフロアに到着した瞬間、彼女は周囲の乗客を押し分けるように外へ出たが、歩く衝撃で括約筋が限界を迎えたのだろう、ロビーの途中で内股のまま動きを止めて凍りついていた。涙目でカバンをお腹に押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げながら、何とか化粧室へと消えていった。今でもデパートのエスカレーターに乗るたび、あの時の彼女の限界の震えと、密室に漂っていた焦燥の気配を思い出して胸がゾクゾクと熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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