植物園の温室での大行列
肌寒い十一月の土曜日、午後二時すぎの都心の植物園でのことだ。特別展示されている珍しい大温室の熱帯植物を見るため、温室の前には長い行列ができていた。私は恋人と並んでいたが、並ぶ前に購入した冷たいお茶を一気に飲み干してしまったのが完全に裏目に出てしまった。
最初の予兆は、列の中央付近に達した時に訪れた。下腹部の奥深くでツンとした鋭い尿意の第一波が走り抜けた。「まだ大丈夫、あと三十分で温室の中に入れるから」と自分に言い聞かせたが、それが地獄の始まりだった。
私はその日、上品なオフホワイトのコートに、黒のミニプリーツスカート、そして八十デニールの黒タイツにショートブーツを履いていた。髪はハーフアップにまとめ、黒の大きなバレッタで留めていたが、尿意の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗で額の生え際が濡れ、前髪が張り付いた。綺麗に施したはずのファンデーションが脂汗で浮き上がり、マスカラが滲んで涙目のようになっているのが自覚できた。
列から離脱すれば、恋人を残して一人で並び直さなければならず、何よりここまで一時間以上も並んだ苦労が無駄になるという葛藤と、周囲の楽しそうな雰囲気が、私を柵の間の列という檻に縛り付けていた。
尿意は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、膀胱は決壊寸前の水風船のように膨らみ、下腹部がギシギシと痛む。私はミニスカートの下で、タイツを履いた内ももをこれでもかと密着させ、両膝を交互にすり合わせるようにして激しく震えさせた。ブーツのつま先に全体重をかけ、お尻の筋肉を極限まで締め付けて尿道の栓を守っていた。
「あと十分、この温室に入るまで……」と、頭の中で狂ったように秒刻みの計算を繰り返すが、焦りで頭が真っ白になった。恥ずかしさと、この無防備な列の中で今にも漏らしてしまいそうだという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。自分の限界の太も目の震えと、プリーツスカートが小刻みに揺れるスリルの中で、心臓は早鐘のように脈打っていた。
ついに限界に達し、私は恋人に「ごめん、トイレ……」と涙目で告げて列を脱出した。お尻をかばう極端な内股の姿勢で走り、園内の化粧室へと滑り込んだ。便座に腰を下ろし、温かい液体が一気に放出された瞬間の、頭の芯がとろけるような凄まじい解放感は、今でも植物園の看板を見るたびに下腹部の奥をキュンと熱くさせるほどだた。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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