恋愛映画のラストシーンでの葛藤
肌寒い十一月の土曜日、午後三時すぎの都心の映画館でのことだ。公開されたばかりの大ヒット恋愛映画を鑑賞するため、シアター内はカップルや若い女性で満席となっており、静寂とポップコーンの香りが漂っていた。私は中央列の席に座っていたが、映画が最も感動的なラストシーンに差し掛かった頃、私の隣の席に座る女性の様子に微かな異変が生じたことに気がついた。……その時、彼女の不自然な仕草が目に入った。
彼女は二十代後半の非常に上品な女性で、上質なネイビーのシルクドレスに、薄手のベージュストッキング、そして七センチのヒールパンプスを履いていた。髪はきれいにアップに整えられ、真珠のネックレスをしていたが、その首筋にはだらだらと冷や汗が流れ落ち、ドレスの襟元を濡らしていた。
彼女は突然、持っていたブランド物のハンドバッグを両手で強く抱え込み、それを下腹部を押し潰すように強く押し当てした。ドレスの裾の中で、ストッキングを履いた内ももをこれでもかと密着させ、両膝を左右に激しくもじもじと擦り合わせいる。上映前にロビーで購入した冷たい炭酸飲料を一気に流し込んだのが、このタイミングで急激な腹痛を引き起こしたのだろう。顔面は完全に血の気が引いて白くなり、綺麗に施されたメイクは冷や汗で崩れ、マスカラが滲んで目の下が暗くなっているのが見えた。
シアター内は真っ暗で静まり返っており、感動的なシーンの最中に席を立つことは極めて目立ち、周囲の迷惑になるという強烈な社会的圧力が、彼女を座席に縛り付けていた。彼女は奥歯を噛み締め、時折「はっ……ん……」と熱く荒い吐息を漏らし、腰を低く落としてお腹を抱え込むようにして必死に括約筋を守っていた。
見てはいけないと思つつも、彼女のドレスの下で強張る太も目の動きと、必死に耐えている様子から目が離せなかった。私の心臓はうるさく鼓動を刻み、喉の渇きを覚えるほどだた。彼女はパンプスのヒールを床に強く押し付け、お尻の筋肉を極限まで締め付けていた。
映画が終わり、館内の照明が点灯した瞬間、彼女は周囲の乗客を押し分けるように通路へ出たが、歩く衝撃で括約筋が限界を迎えたのだろう、ロビーの途中で内股のまま動きを止めて凍りついていた。涙目でカバンをお腹に押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げながら、何とか化粧室へと消えていった。今でも映画館に行くたび、あの時の彼女の限界の震えと、暗闇に漂っていた焦燥の気配を思い出して胸がゾクゾクと熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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