高級バーのシックな死闘
肌寒い十月の金曜日、午後十一時前の銀座のシックなバーでのことだ。店内は暗めの照明に照らされ、静かなジャズが流れる大人の空間だった。私は同僚とテーブル席で飲んでいたが、カウンターの端に座っていた一人客の女性の様子に微かな変調が生じ始めたのに気がついた。……彼女の体が不自然に強張っているのが見えたのだ。
年齢は三十代前後のキャリアウーマン風で、体にフィットした上質な黒のノースリーブワンピースに、極薄の黒ストッキング、そしてヒールが八センチもある黒パンプスを履いていた。髪はサイドをすっきりと流したショートボブで、耳元にはパールのピアスが揺れていた。しかし、ジントニックや冷たいウイスキーのロックを何杯もおかわりしたのが災いしたのだろう、彼女は突然、カウンターの椅子から腰を浮かせ、持っていた高級ブランドのクラッチバッグを下腹部に強く押し付け始めた。
彼女の顔は完全に青ざめ、額には無数の冷や汗の玉が浮かび、綺麗に整えられていたアイラインやファンデーションが汗で崩れていくのが至近距離でも分かった。彼女はワンピースの裾を握りしめ、ストッキングを穿いた内ももを激しく擦り合わせながら、両脚をぴったりと交差させていた。
周囲は静かにカクテルを楽しむ客ばかりで、大きな音を立てて立ち上がることも、席を立ってトイレを探すことも躊躇われる社会的圧力があった。彼女は唇を強く噛み締め、「んっ……ぅ……」と押し殺した短い喘ぎのような吐息を漏らし、必死に尿道の栓を守っていた。パンプスのカカトを不規則に床に打ち鳴らし、括約筋を極限まで締め付けて尿意と戦っていた。
私は彼女の限界の太も目の震えと、クラッチバッグを握る手の爪が真っ白になっている様子から目が離せなくなっていた。見てはいけないと思うのに、彼女が尿意の波でビクンと全身を痙攣させるたび、私の心臓は激しく波打っていた。
しばらくして、彼女はついに耐えかねたのか、バーテンダーに消え入るような声でチェックを頼み、極端な内股のすり足で這うようにしてビル内の化粧室へと消えていった。今でも静かなバーのカウンターに行くたび、あの時の彼女の限界の表情と、漂っていた逆境の気配を思い出して胸がゾクゾクと熱くなるだた。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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