閉店間際、店の前でうづくまってたマダムを救出した話
これは目撃談っていうか救出劇なんですけど。閉店間際にレジ締めしてたら、店の前の歩道でマダム(たぶん50代、上品なワンピースにパールのネックレスしてた)がうづくまってて。具合悪いのかと思って出てったんですよ。冬の夜で、周囲は暗かった。
「大丈夫ですか?」って声かけたら、「大丈夫…じゃないかもしれない」って言われて、まじどっちってなって。よく見たら顔が真っ青で、脂汗すごくて、上品な人だからこそその崩れっぷりに事の深刻さが伝わってきて。手も小刻みに震えてて、いつもなら絶対見せないような弱った表情でした。その時点で、これは通常の体調不良ではないと悟った。
「お手洗い、貸していただけないかしら」って絞り出すみたいに言われて。うちの店のトイレ、ほんとはお客様用じゃないんだけど、そんなこと言ってる場合じゃなさすぎて、速攻案内しました。マダム、ヒール半分脱ぎながら駆け込んでって、そこから20分出てこなくて。店内しずかだったから、まあ、聞こえちゃいけない感じの音が色々聞こえてました。
あたしはドライヤー意味なく回して音消してあげてた。ずっとドキドキしてたのは、あたしのほうかもしれません。上品な人のあんな必死な姿、なんか見ちゃいけないもの見た気がして。人間の社会的な地位や品格も、生理的な限界の前には無力だということを、その時思い知らされた。
出てきたマダム、別人みたいにつやつやしてて「あなた命の恩人よ」って千円握らせようとしてきた(断りました)。聞いたら、駅もカフェもトイレ行列で、3軒断られてうちに来たらしくて。夜の商店街のトイレ難民、まじで多いんですよ。その方の背後には、同じような苦労をしている無数の人たちがいるんだと感じた。
帰り際、マダムは何度も振り返って頭を下げながら帰っていって、その後ろ姿がなんかすごく印象に残ってます。普段は完璧な身だしなみの人が、あんなにボロボロになる瞬間があるんだなって、まじで人間の弱さと強さを同時に見た気分でした。あのマダム、また普通にお客さんとして来てほしいな。次会ったら、絶対何事もなかったみたいに接客します。その時、お互い目が合ったなら、それは暗黙の連帯だと思う。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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