泥酔した住人が中庭の植え込みでしゃがんでいた夜
社員寮の管理人をしております。あれは金曜の夜11時ごろ、消灯前の見回りをしておりましたときのことです。中庭の植え込みのあたりに、白い影がぼんやり見えました。こんな時間に誰かと思い、不審者かと懐中電灯を向けかけて、寸前でやめました。結果的に、やめて正解でした。
月明かりで目が慣れてきますと、それは営業部の30代の重人でした。スーツのズボンを下ろして、植え込みの陰にしゃがんでいたのです。押し殺したうめき声と、続いて聞こえてきた、あの、なんと申しますか、あの音で、何をしているかは明白でした。はあ。
聞けばその日は取引先との会食だったそうで、帰りのタクシーの中で限界が来たのでしょう。門から玄関までの石畳を、彼が異様に小刻みな歩幅で歩いてくるのを、実はわたし、見回りに出る前に管理人室の窓から見ておりました。あの歩き方、両膝を離さずに進むあの独特の歩き方は、経験者なら誰でも分かります。玄関のトイレまであと20メートル。しかし彼は玄関ではなく、突然進路を変えて中庭へ折れました。人間が理性を手放す瞬間を、わたしは見てしまったわけです。
声をかけるべきか10秒ほど迷いましたが、人間、あそこまで追い込まれたらもう止まれません。肩を丸め、両手を膝について、時折夜空を仰いで、全身で耐えて、いえ、全身で出しているあの姿は、哀れというより、もはや厳粛ですらありました。わたしはそっと管理人室に戻りました。心臓が妙に騒いでいたのは、見てはいけないものを見た後ろめたさでしょう。
翌朝、恐る恐る現場を確認しますと、律儀なことに、きちんと土がかけてありました。犬の後始末のようで少し笑ってしまいましたが、泥酔していてもその几帳面さが残るあたり、営業成績のいい男は違うと妙な感心もいたしました。
後日、本人がバツの悪そうな顔で管理人室に来まして、「先日はその、夜分に、中庭の水やりをしてまして」と意味不明な弁解をしていきました。水やりで土は掛けんでしょう、と言いかけてやめました。酔った人間に20メートルは遠い。わたしにも覚えのある距離です。
はあ、それにしても植木が枯れないか、そちらの方が心配です。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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