排泄物語

トイレ故障中の貼り紙を出した2日間の常連たちの攻防

投稿者: モカマタリ半額1分で読めます閲覧 3,0024.5(27件)

月曜の朝、うちのトイレの水が流れなくなった。築40年の店だから配管も年寄りだ。業者に電話すると水曜まで来ないという。「お手洗い故障中・最寄りは駅かコンビニ(徒歩4分)」の貼り紙を出した2日間、私はカウンターの中から、実に人間的なものを観察することになった。

コーヒーとは利尿の飲み物である。珈琲を出す店からトイレを取り上げるとどうなるか。答え、店内が静かな戦場になる。

常連の年配女性Aは、貼り紙を見た瞬間、注文したばかりの珈琲を半分残して席を立った。「ちょっと駅まで」と言ったその歩幅がいつもの半分で、しかし回転数は倍だった。あの年代特有の、我慢の利かなさと恥じらいの板挟みが、後ろ姿に全部出ていた。20分後に戻ってきて、残り半分を飲み干し、また出ていった。学習しない人だ。いや、うちの珈琲がうますぎるのだと思っておく。

読書が趣味の女性B(40代、いつも文庫本と共に2時間居る)は、文庫本を30ページ読む間に足を組み替えること11回。数えていた私も私だが、後半は組み替えの間隔が明らかに縮んでいた。ページをめくる手が止まり、目が文字の上を滑っているのが分かる。膝が細かく揺れ始めたところで、彼女は静かに本を閉じ、「また明日」と言って駅の方へ、競歩の選手のように去った。

極めつけは営業職風の女性C(20代後半、パンツスーツ)。「故障中」の文字を3度見して、「近くにトイレは」と聞く声がもう震えていた。飛び込む前提で来た顔だった。コンビニまで徒歩4分と伝えると、彼女は一瞬天井を仰ぎ、何かを計算し、コーヒー代を置いて無言で出ていった。窓越しに見えたのは、店の前の横断歩道を信号が変わる前に渡りきる、鞄を抱えた全力疾走だった。あの走りは間に合っていないと思う。いや、間に合っていてほしい。あの日から私は、知らない女性の膀胱の無事を祈る店主になった。

水曜、業者が来てトイレが直った。Cはその日の夕方また来て、席に着く前にまずトイレの動作確認をしてから、ゆっくり珈琲を飲んだ。学習する女だ。彼女には内緒で、豆を少し多めに挽いた。

― この話は、これにて ―

この話を評価する

平均 4.5(27件)

掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

モカマタリ半額」の他の話

3.523閲覧 764

「お手洗い貸して」と駆け込んできたマダムが3歩届かなかった

平日の午後3時、店が一番暇な時間帯。客はゼロ、私はカウンターで珈琲豆の在庫表をつけていた。そこへドアベルが激しく鳴った。 駆け込んできたのは50代くらいのマダム。上等そうな絹のスカーフ、仕立てのいいワンピース、美容室帰りらしき整った髪。近所…

3.012閲覧 253

うちの店のトイレを40分占拠したOLの話

うちは駅から3分の小さな喫茶店。カウンター6席、テーブル3つ、トイレはひとつしかない。マスターは私。観察が趣味だ。 先週の火曜の昼、ランチ後の珈琲を出し終えた13時半ごろ。常連のOLさん(推定20代後半、いつも紺のジャケットにベージュのパン…

関連する話

3.8427閲覧 1.9万

【観測記録・春】上野公園の満開の下、宴会集団から出た限界個体の記録

4月2日、上野恩賜公園。晴れ、風弱し。ソメイヨシノは満開を2日過ぎた頃で、園内は夕方の時点で既に飽和状態であった。私の定点は噴水広場寄りのベンチ。ここは公衆トイレへの動線が交差する要衝であり、観測には最適である。花びらが夕風に乗って絶えず舞…

3.7918閲覧 1.9万

【観測記録・秋】ハロウィン渋谷、ゾンビメイクの女性が本物の緊急事態になるまで

10月31日、渋谷センター街周辺。晴れ、夜間気温15度。ハロウィン当夜の渋谷は、観測者にとって年間最大のフィールドである。ただし近年は規制強化で路上飲酒が減り、事例数は減少傾向にある。それでも仮装した成人たちの密度は相変わらず高く、路地とい…

3.7448閲覧 1.6万

河川敷の草むらで、犬の散歩の人が来たあの三分間

金曜の深夜一時、残業帰り。あの公園の夜から、私は遠回りして帰るようになってしまった。まっすぐ帰る道より、少しだけ遠い道を選ぶこと。それが自分でも気づかないうちに、習慣という名の秘密になっていた。 その日は多摩川の河川敷を選んだ。土手の下の草…

4.1738閲覧 1.5万

夏フェスのトイレ百人待ちとか無理。森でしてきた女の言い分

てかさ、夏フェスのトイレ問題どうにかならんの?って毎年言ってるんだけど。去年の山のフェス、昼のピークで仮設トイレ百人待ちなんよ。百人て。推しのステージ三十分後に始まるのに並んでたら人生終わるじゃん。 しかもうち、その時点でもう下腹やばくてさ…

読むだけ、で終わらせない

排泄プレイが好きな女の子は、本当にいる。

aune(アウネ)は、性癖を打ち明けてつながるマッチングサービス。「排泄系が好き」と公言している女の子が実際に登録しています。体験談を読むだけじゃなく、あなた自身の体験をつくりに行きませんか。プレイ相手を探すなら、最初から性癖が一致する相手と。

auneで排泄好きの相手を探す

PR・広告リンクを含みます