模試監督は途中退出できません。90分の攻防で講師が学んだこと
今回は自分の失敗談です。つまり、教える側も人間だという話です。
日曜の全国模試で、私は監督業務に入っていました。模試の監督は途中退出できません。要するに90分間、教室の前で立ち続け、不正がないか目を配る仕事です。代わりはいません。トイレに立った監督の教室で何かあれば、模試全体の信頼に関わる。これが今回の「檻」でした。
問題は、その朝コンビニで買った牛乳でした。賞味期限は見ました。見ましたが、直射日光の当たる車のダッシュボードに30分置いたのがまずかった。教室に入る直前、一気に飲み干した自分を、今でも殴りたい。
試験開始25分、腹部に第一波。鈍い、遠雷のような痛みでした。この時点ではまだ余裕があり、要するに「様子見」で済ませました。40分、第二波。遠雷が頭上に来ました。腸のどこかで、ごろり、と何かが移動する感覚。私は教卓に両手をつき、受験生には「問題を厳しく見守る監督」に見えるよう演技を始めました。
60分を過ぎたあたりからの記憶は、正直、断片的です。覚えているのは、壁の時計の秒針の遅さ。冷や汗で背中に張りつくシャツ。腹圧を逃がすためにわずかに変える重心。そして内心で続けた、自分の腸との抗議……交渉です。あと30分。あと20分。次の波さえやり過ごせば。つまり私は90分間、監督をしながら自分自身を監督していたのです。
「やめてください、鉛筆を置いてください」。自分の声が天の声に聞こえました。回収作業の速さは自分史上最速だったと思います。答案の枚数確認だけは間違えられないので、震える指で二度数えました。あの二度目の点呼が、人生で一番長い数勘定でした。
答案を事務に引き渡した3秒後、私は講師用トイレに駆け込み、間一髪で人間の尊厳を守りました。個室で聞いた自分の心臓の音を、今でも覚えています。要するに何が言いたいかというと、夏場の車内に乳製品を置いてはいけない。これは受験知識より大事です。
― この話は、これにて ―
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