単身赴任先の玄関前、鍵が見つからない30秒間の敗戦記
単身赴任4年目、高松…の前は岡山、その前は郡山。引っ越しすぎて、どこの家の鍵がどれか一瞬分からなくなる時があるんですよ。
この話はそれが最悪のタイミングで発動した記録です(白目)。金曜の夜、職場の飲み会からの帰り道。讃岐うどんの締め(飲んだ後にうどん食う文化、あれ最高なんですけど腹には爆弾です)を経て、アパートまで徒歩12分。足取りは重い。飲み会の間はまったく平気だったのに、外の夜風に当たった瞬間から嫌な予感がしていました。
歩き出して5分で、腹の中で不穏な地殻変動が始まりました。最初は小さな痛みでしたが、その痛みはどんどん大きくなってった。残り7分を早歩き3割増しでクリアする頃には、下腹全体がずしんと重くなっていました。信号待ちのたびに「頼むから変わってくれ」と念じていた自分がいます。
アパート階段を駆け上がり、玄関前に到達した時にはもう脂汗が滲んでいました。勝った、と思いました。思ったんですよ。鞄の中の鍵が、見つからない。ポケット、無い。手が震えて余計に探しにくくなっていました。触覚がおかしい。指が言うことを聞かない。
鞄の底、無い。内ポケット…あった!でもこの30秒のロスと「もう家だ」という安心感が、括約筋の緊張を解いてしまってたんですね。体が「到着した」と勘違いして、緊張を全部解いた。
鍵を回して、ドアを開けて、玄関で靴を脱ぐその瞬間に、間に合いませんでした。全部じゃないです。全部じゃないけど、40代を目前にした男が単身赴任先の玄関で漏らしたという事実は消えません。膝から力が抜けて、しばらく玄関にしゃがみ込んでいました。洗濯機を深夜に回しながら、香川…じゃなくて加川、いや香川の夜は更けていきました。
単身赴任、こういう時に誰にも見られないのだけが救いです。次の飲み会は鍵を手に持って帰ります。玄関の鍵置き場も今回のことで見直しました。一人暮らしの夜は静かで、こういう失態も自分だけの秘密にできるのが唯一の慰めです。讃岐うどんはもう二度と夜間に食わない。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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