講義棟3階女子トイレ閉鎖事案と、追い詰められた院生の記録
標記の件、施設管理担当として経験した事案を共有いたします。昨年6月、講義棟3階の女子トイレが配管詰まりで全面閉鎖となりました。業者手配の関係で、復旧まで丸2日。「4階または2階をご利用ください」の貼り紙を出して対応しておりました。梅雨時期で湿気も多く、館内全体がどこか蒸し暑い日々でございました。室温は28度に達し、空気中の重さが体力を奪う季節でした。
事件は閉鎖2日目の昼休みに発生いたしました。3階の院生研究室から女子院生(修士2年、24歳)が飛び出してきて、閉鎖中のトイレに突入しようとしたのです。眼鏡をかけた真面目そうな方で、いつも研究室にこもりきりだと聞いておりました。前髪が額に張り付いているほど今日は汗をかいているようでした。
私はちょうど貼り紙の補修に来ており、「ここ使えませんよ」と声をかけました。彼女の顔から血の気が引くのが分かりました。額には脂汗まで浮いておりました。手にしたノートを取り落としそうになっていたのを覚えております。眼鏡の奥の瞳孔が開き、焦点が定まらない様子も見えました。その瞬間の絶望的な表情は、職員生活で数少ない「人間の切実さ」を感じさせるものでした。
「4階か2階へ」と案内しかけたところ、彼女は「階段は、無理です」と絞り出すように言いました。腹を下していたようで、上下運動が致命傷になる状態だったのでしょう。お腹を片手で押さえ、もう片方の手で壁に寄りかかりながら、脚を小さく震わせておりました。声も途切れがちで、余裕のなさが痛いほど伝わってまいりました。白い息が唇の端に見える程の必死の状態。時折、彼女は壁に身体を預けたまま静止し、5秒ほど耐える素振りを見せました。
私は判断いたしました。職員用の鍵で、同じ階の職員専用トイレを開けたのです。彼女は無言で駆け込み、5分後、生まれ変わったような顔で出てまいりました。頬にはまだ赤みが残っておりましたが、深々と頭を下げてくれました。本来、職員専用施設の学生利用は届出が必要です。ですがあの状況で書類を書かせていたら、書類より先に別のものが完成していたはずです。事後報告で処理いたしました。施設管理とは、規則と人道の間で毎日揺れる仕事でございます。あの日の彼女の安堵の表情は、今も記憶に残っております。
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