エレベーター待ちのOLさんが崩れ落ちた夜のこと
同じ夜間講座に、いつも定時ダッシュで来てるっぽいOLさん(20代後半くらい、いつもタイトスカートにヒール、髪をきっちり巻いてる人)がいるんすよ。あの日は21時半に授業終わって、エレベーター前にみんな並んでたんす。雑居ビルのエレベーター、6人乗りが1基しかなくて遅いんすよね。外は既に夜気に包まれてて、停電でもあったのか照明が暗めでした。
そのOLさん、列の前の方にいたんすけど、様子が変で。足をずっとクロスさせて、カバンを体の前で抱えて、小刻みに揺れてました。頬が上気してるのが蛍光灯の下でも分かったっす。あ、これヤバいやつだなって、自分も先週大の方でヤバかったんで分かったっす。時折うつむいて、何かに耐えるように奥歯を噛みしめてる感じもありました。ヒールの先端が床をコツコツと叩き始めました。
その時間、どれくらい経ったんすかね。5分? 10分? エレベーター来るまでの時間が、その人にとって永遠に感じられてたんだと思うんすよ。隣に立ってた男性が「大丈夫ですか」って聞こうとしたくらい、様子がおかしかったんすよ。彼女の目は焦点が定まってなくて、唇は薄く引き結ばれたまま。肌は普段より一段階濃い赤色でした。呼吸も浅くなってるのが、その胸の上下の小ささで分かりました。
エレベーターが来て、乗った瞬間に「あ」って小さい声が聞こえて、見たらその人しゃがみ込んでたんすよ。狭い箱の中で、足元にちょっとずつ水たまりが広がってくの、乗ってた全員気付いてたと思うんすけど、全員無言でスマホ見てました。誰かの息を呑む音だけが聞こえた気がします。あれが大人の優しさなんすかね。俺も心臓バクバクしてたのは内緒っす。
彼女の体は微かに震え、その震えは内部から湧き出す何かへの抵抗なんだと理解しました。その光景が数秒続き、永遠に続くような感覚でした。背中が丸くなり、肩が最後の力を振り絞るように見えました。
1階着いたら彼女は真っ先に降りて、夜の駅と反対方向に走ってきました。次の週も普通に授業来てたのは、正直めちゃくちゃ強いと思ったっす。俺なら校舎変えるっすね。あのエレベーター、今でも乗るたびちょっと思い出すんすよ。狭い箱の中の、あの気まずいけど誰も口にしない静けさだけは、いまだに忘れられないっす。その沈黙の中で、人間というものの複雑さと、それでも続く日常というものの不思議さを感じたんす。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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