地下書庫の蔵書点検で、司書の私が本より先に限界になった話
年に一度の蔵書点検の時期、司書は地下の閉架書庫に半日籠ることになります。これは昨年10月、私自身の話でございます。地下2層の書庫は携帯の電波も届かず、トイレは地上階まで階段で4分。作業は2人一組で、抜けるときは声を掛け合う決まりです。その決まりが、私の悲劇を生み出しました。
その日の相方は年配の非常勤の方で、黙々と背表紙を照合する背中に「お手洗いに」と言い出すタイミングを、私は完全に見失っておりました。朝に飲んだほうじ茶のポットが恨めしく思い出されました。読みかけの本を閉じられないまま物語だけが進んでいくような、そんな下腹の重さが2時間続きました。その重さは時間とともに増していきました。
書架の間で在庫リストを持つ手が冷たくなり、額にはうっすら汗もにじんでまいりました。棚と棚の隙間を歩くたび、下腹の圧が波のように押し寄せては引いていくのを感じておりました。その波は一定ではなく、ある時は穏やかに、またある時は急激に襲ってきました。相方に声をかけようと息を吸っては、また飲み込む、その繰り返しでございました。誰も来ない地下の薄暗さが、その我慢を倍加させました。
13時の休憩の鐘でようやく解放されて、階段を駆け上がりました。その駆け上がりは、恐らく地下2層の館内アナウンス以来の速度でございました。個室に入った瞬間の安堵は、絶版だと諦めていた本が寄贈で戻ってきた時の気持ちに少し似ています。膝から力が抜けるような、そんな解放感でございました。その解放感の中で、自分の職業人生における新しい学びを得ました。
以来、点検の朝はお茶を一杯までと決めました。書庫の静けさは、我慢の音まで響かせる気がするのです。その音は、誰かの記憶に永遠に残るのです。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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