【観測記録・冬】忘年会シーズンの歌舞伎町、ベテランの貫禄を見せた和服の女性
12月26日、歌舞伎町一番街付近。晴れ、乾燥、夜間気温4度。忘年会シーズン最終盤の週末であり、路上には理性を年内に使い果たした成人が多数観測された。ネオンの光が乾いた路面に滲み、酔客の吐く息が白く街灯に浮かんでいた。忘年会帰りの集団があちこちで千鳥足を披露し、今夜も限界事例の当たり年であることを私に予感させていた。
24時頃、事例発生。スナック帰りと思われる和服姿の50代女性が、同年代の女性2名と腕を組んで千鳥足で歩いていた。途中まで陽気に笑っていたが、あるビルの角を曲がった辺りから急に口数が減り、帯の上から下腹をそっと押さえる仕草が増えていった。歩調が徐々に乱れ、時折立ち止まって深く息をつく様子が、私の観測眼にも明らかな異変として映った。
連れの一人が「どしたの」と聞くと、彼女は苦笑いで「ちょっと、そろそろ限界かもしれない」と答えた。三人でトイレを探して周囲を見渡すも、この時間、この界隈で使える店はどこも満席か閉店間際である。歩くたびに着物の裾を握りしめる手に力がこもり、額にうっすら汗が浮かぶ。忘年会続きで疲れた体には、いつもなら難なくこなせる我慢がやけに重くのしかかっているようだった。永遠に続くかと思われた数分間、彼女は歯を食いしばるようにして耐えていた。
年季の入った体は、若い個体よりも限界の予兆を長く隠せる分、決壊の瞬間は唐突であるというのが私の見立てである。彼女は道端の自販機に手をつき、目を閉じて何かをやり過ごすような表情を見せた。連れの二人が両脇から支えるようにして歩みを再開させるが、その数十メートルの道のりが途方もなく長く感じられているのが、強張った背中から伝わってくる。忘年会シーズンの酒と冷えた夜気が、彼女の我慢の糸を静かに、しかし確実に細らせていた。
限界が訪れたのは、ビルの谷間の駐車場入口(シャッター前、街灯直下、通行人から丸見え)であった。「ちょっとごめんなさいよ」と一声、着物の裾を器用にさばいてしゃがみ込む所作は、失礼ながら年季を感じさせる滑らかさであった。連れの2名は隠すでもなく「早くしなさいよぉ」と笑っており、3名とも危機感は皆無であった。年季を重ねた友情の証なのか、羞恥という感情自体がこの三人の間では既に摩耗しているようであった。
堰を切ったように流れ出す音とともに、それまで強張っていた彼女の肩からふっと力が抜けていくのが見えた。アスファルトを流れる筋が飲食店のネオンを反射して七色に光る様は、歌舞伎町という街の縮図のようであった。約30秒で終了し、女性は「あー、すっきりした」と大声で宣言して歩行を再開。
通りすがりの若者グループが「あの人強え…」と呟いていたのが本事例の総評として的確である。年の瀬の感測納めに相応しい、堂々たる事例であった。忘年会という名の集団儀式が、年に一度だけ人の理性の鎧を脱がせるのだと、私は帰り道にひとり得心した。
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