植物園の温室通路と日傘の令嬢
うららかな春の5月、午後2時半頃、都内の植物園の屋外遊歩道でのことだ。気温は22度前後と心地よく、色とりどりのバラが咲き誇る小道を私は散策していた。 ……その時、バラのアーチの陰で立ちすくんでいた女性が目に入った。
年齢は20代半ばくらい。白いレースのワンピースに、お洒落な麦わら帽子。片手には黒いレースの日傘を持っていた。足元は白いストラップパンプスを履き、いかにも上品な令嬢といった雰囲気だった。 しかし、彼女は日傘をすぼめたまま、両手でお腹を抱えるようにして動きを止めていた。
彼女の顔から、みるみるうちに血の気が引いていくのが遠目にも分かった。 一歩を踏み出す瞬間にビクッと全身を震わせ、パンプスの踵を砂利道にめり込ませるようにして内股で固まっている。 ワンピースの裾をギュッと掴み、下腹部を圧迫するように前かがみになっている。冷たい脂汗が額に浮かび、眉が苦痛で八の字に歪んでいる。間違いない、急激な尿意の波に襲われているのだ。
植物園の展示温室の周囲にはトイレ設備がなく、一番近い公衆トイレまでは徒歩で10分はかかる。その足元の悪い砂利の檻が、彼女を精神的にさらに追い詰めているようだった。 見てはいけないと思いつつも、彼女のワンピースの下の震える脚と、漏れそうなのを必死で耐える不自然な姿勢から目が離せなくなり、私の心臓はドクンと激しく鼓動を刻んだ。
尿意の第ニ波が彼女を直撃した。 「うぅ……っ」と掠れた吐息が漏れ、彼女はワンピースの生地を指先が白くなるほど強く握りしめ、お尻の筋肉を極限まで締め付けている。 額から流れる汗を拭う余裕すらなく、ただ目を見開いて地面の一点を見つめていた。
ついに限界を迎えたのか、彼女は日傘を道端に置き、お尻をかばうように極端な内股のまま、バラの生け垣の裏手にある鬱蒼とした林の影へと長る(這う)ようにして駆け込んでいった。 今でもバラの甘い香りを嗅ぐたび、あの日のうららかな風と、極限の我慢に震えていた彼女の涙目を思い出して胸が熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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