岬の上の神社と吹きすさぶ潮風
冬の冷たい風が吹きつける1月の午後2時前、太平洋に突き出た高い岬の上に佇む神社でのことだ。周囲は断崖絶壁で、激しい波の音が響く中、私は参道の展望台から海の写真を撮っていた。 ……その時、鳥居の下で立ちすくんでいた着物姿の女性の様子が急変したのが目に入った。
年齢は20代半ばくらい。華やかな紫色の振袖に、ゴールドの帯をきつく結んでいた。足元は白い足袋に草履を履いていた。髪は綺麗にアップにまとめ、手には小さな和装バッグを持っていた。 最初は記念写真を撮っていた彼女だが、突然お腹を抱えるようにしてその場に立ち止まった。
彼女の様子がおかしいのはすぐに分かった。 一歩を踏み出す瞬間にビクッと全身を震わせ、草履の踵を砂利にめり込ませるようにして内股で固まっている。 着物の裾を両手で強く掴み、下腹部を圧迫するように前かがみになっている。冷たい脂汗が額に浮かび、眉が苦痛で八の字に歪んでいる。間違いない、急激な腹痛と便意の波に襲われているのだ。
岬の上にはトイレ設備がなく、一番近い公衆トイレまでは長い石段を下りて15分はかかる。その足元の悪い石段の檻が、彼女を精神的にさらに追い詰めているようだった。 見てはいけないと思いつつも、彼女の着物の下の震える脚と、漏れそうなのを必死で耐える不自然な姿勢から目が離せなくなり、私の心臓はドクンと激しく鼓動を刻んだ。
便意の第ニ波が彼女を直撃した。 「うぅ……」と掠れた吐息が漏れ、彼女は着物の袖をギュッと握りしめ、お尻の筋肉を極限まで締め付けている。 額から流れる汗を拭う余裕すらなく、ただ目を見開いて海の一点を見つめていた。
ついに限界を迎えたのか、彼女は草履を脱ぎ捨てて参道から外れ、崖の近くの生い茂った藪の影へと這うようにして駆け込んでいった。 今でも荒々しい海の波の音を聞くたび、あの時の彼女の限界の表情と、崖の上に残された草履の光景を思い出して胸が熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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