雨の日のバス停留所
秋の冷たい雨が降る夕方六時、郊外のバス停留所でのことだ。私は家路を急ぐため、トタン屋根の狭い待合スペースでバスを待っていた。雨風が強く、周囲の気温は急速に下がり、足元は冷気で芯から冷え切っていた。 ……その時、私の隣に立っていた女性が目に入った。 年齢は三十代前半くらいだろうか、仕事帰りらしい。 上品なオリーブグリーンのステンカラーコートに、黒いウール混のスラックスパンツを履いている。 髪は綺麗にブローされた上品なボブカットで、手には濡れたビニール傘と、マチの広い本革製の黒いビジネスカバンを持っていた。
最初は静かにスマートフォンを見ていた彼女だったが、徐々に足元の動きが不自然になっていった。 彼女は突然、持っていたビジネスカバンを両手で抱え込み、それを下腹部に強く押し当てるようにし始めたのだ。 さらに、黒いスラックスパンツの中で、両膝をピタリとくっつけ、内ももを擦り合わせるような仕草を繰り返している。 冷たい雨のせいで尿意が限界に達しつつあるのだろう。 メガネの奥の瞳は不安そうに左右に揺れ、きつく噛み締めた唇は細かくワナワナと震えていた。 時折、大きく肩を上下させては深く息を吐くが、その息は白く濁って消えていく。
私はスマートフォンの画面を見るふりをして、彼女の様子を観察せずにはいられなかった。 バスは悪天候のため予定時刻を過ぎても一向にやってこない。 彼女の呼吸は徐々に浅くなり、冷や汗がメガネのフレームを伝って頬に流れるのが見えた。 「早くバスが来てくれれば……」という彼女の焦りが、じっとりとした空気を通じて伝わってくるようだった。 彼女はカバンを握りしめる手を白くさせ、レザーに爪が食い込むほど力を入れていた。 その限界の表情と、社会的な檻の中で耐え続ける姿に、私の心拍数は跳ね上がった。
尿意の波が激しさを増すにつれ、彼女は片足を大きく引きずり、その場で小刻みに足踏みを始めた。 スラックスの生地が太ももの間で擦れ、衣擦れの音が雨音に混じって不規則に聞こえる。 彼女は時折、ハァ、と苦しげな吐息を漏らし、腰を低く落としてはまた背筋を伸ばしていた。 カカトを交互に浮かせ、尿道の出口を必死で締め付けているのが見て取れる。 見てはいけないと思いつつも、彼女の限界に達した太ももの震えと、引き攣った顎のラインからどうしても目が離せなかった。
ようやく遠くからバスのヘッドライトが見えた。 しかし、バスが停留所に滑り込んできた瞬間、彼女は「っ……!」と小さな悲鳴を上げ、その場にうずくまってしまった。 両手で完全に股間を押さえ、顔を真っ赤にして泣きそうな表情で耐えている。 結局、彼女はバスに乗ることができず、ドアが開いても動けないまま、雨の夜の暗がりに佇んでいた。 今でも冷たい雨が降る夕方にバスを待つたび、あの時の彼女のスラックス越しの震えと、押し殺した吐息を思い出して胸が締め付けられる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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