高級懐石料里での静かな破滅
肌寒い4月の夜8時前、接待で利用した銀座の高級懐石料里店の個室でのことだ。掘りごたつの座敷は凛とした静寂に包まれており、高価な香の香りが漂っていた。私はアシスタントとして下座に控えていたが、その時、隣に座っていた取引先の女性担当者の様子が異様なことに気がついた。
彼女は上品なモカブラウンのフレンチリネンドレスに、細いレザーベルトを合わせ、ストッキングにパンプスを履いていた。髪は綺麗にブローされた上品なボブカットだった。しかし、冷たい先付けとお造りを食べたあたりから、彼女の表情が急激に強張り始めた。
彼女の額や首筋には、暖房が程よく効いた室内であるにもかかわらず冷たい脂汗がにじみ、綺麗に塗られたチークの下の肌は青ざめていた。汗でファンデーションが流れ、おでこに前髪が張り付いていた。掘りごたつの下で、彼女は両膝をきつく合わせ、足首をクロスさせてお尻の筋肉を極限まで引き締めていた。手がテーブルの下で膝を握りしめ、爪が手のひらに食い込むほどの緊長が伝わってきた。
彼女は猛烈な便意と戦っていた。重要な商談の席であり、自分が話を遮って席を立つことはできないという社会的な同調圧力が、彼女を座敷に繋ぎ止めていた。頭の中では「あと10分でこのコースのメインが終わる、そこまで耐えてくれ」と必死に念じているのだろう。しかし、便意の波は容赦なく彼女を襲う。波が来るたび、彼女は目を固く閉じ、奥歯を噛み締め、呼吸を引き攣らせて耐えていた。
私は彼女の極限状態の様子から目が離せなくなってしまった。ドレスの生地越しにも伝わる臀部の強張りと、必死に太ももを押し付け合う動き。見てはいけないものを見ているという罪悪感に、私の心臓はバクバクと激しく脈打ち、喉がカラカラに渇いた。
ようやく商談が一段落し、先方が席を外した瞬間、彼女は這い出るようにして立ち上がり、極端な内股のまま千鳥足で廊下を進み、店の奥の化粧室へ駆け込んでいった。今でも高級な和食の香りを嗅ぐたび、あの時の張り詰めた和室の空気と、彼女の限界の表情を思い出して胸がゾクゾクする。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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