逃げ場なきローカル線の夜
十月下旬の冷え冷えとした金曜日の夜九時半過ぎ、都心から郊外へと走る地方ローカル線の車内でのことだ。週末の仕事帰りの乗客で混み合う車内は、暖房の効きが非常に悪く、ドアが開閉するたびに夜の冷たい秋風が容赦なく足元を直撃した。最初の異変は、急行停車駅を出発してからすぐに起こった。下腹部の奥底で、ツンと刺すような鋭い尿意の第一波が走った。
「次の停車駅まであと二十分……いや、その駅にはトイレがないかもしれない」と気が付き、血の気が引いた。この電車にはトイレ設備がなく、一度降りると次の電車が来るまでに四十分以上待たなければならない。私はその日、厚手のモヘアの白いタートルネックセーターに、薄手のウール製チェックスカート、そして黒のタイツに茶色の革製ショートブーツを履いていた。髪はハーフアップに結んでいたが、冷や汗で額の生え際がじっとりと湿り、髪の毛が肌にはりついてまとわりつく。顔からは完全に血の気が失せて土気色になり、冷たい車内で自分だけが異様な熱気に包めているように感じられた。
車内は読書やスマートフォンを見つめる乗客で満ちており、もしここで漏らすようなことがあれば、一生の傷になるという恐怖が私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰める。私は電車の揺れに耐えながら、タイツを履いた両膝をぴったりとくっつけ、内ももを激しく擦り合わせるようにしてもじもじと身を捩った。ブーツの爪先に全体重を乗せ、お尻の筋肉を極限まで締め付けながら、吊り革を握る右手に全ての力を込めて耐えた。
尿意は第二波、第三波とより強力になって襲いかかり、膀胱はいつ破裂してもおかしくないほどに膨張していた。電車のジョイント音に合わせて激しい衝撃が下腹部を襲うたびに、私は思わず「うぅ……」と小さな呻き声を漏らしそうになり、きつく唇を噛み締めて耐えた。噛み締めた唇から血が滲み、口の中に鉄の味が広がった。頭の中で狂ったように「あと三分、あと二分……」と残り時間を計算するが、駅の手前で信号待ちのために電車が一時停車した瞬間、絶望で目の前が真っ暗になった。
ようやく次の駅に滑り込み、ドアが開いた瞬間、私は周囲の乗客を押し退けてホームに飛び出したが、一歩を踏み出す衝撃で尿道が限界を迎えそうになり、その場に崩れ落ちるように立ち止まった。涙目でカバンを下腹部に強く押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げ、すり足のような奇妙な歩幅でトイレへと這いずるように進んだ。個室の便座に座り、凄まじい勢いで尿が放出された瞬間の、頭が真っ白になるような圧倒的な解放感は、今でもローカル線のブレーキ音を聞くたびに思い出して股の奥がすくむ。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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