超満員路線の逃げ場なき悪夢
蒸し暑い梅雨の日の月曜日、午前八時半前の通勤ラッシュ時の市営バス車内でのことだ。車内は乗客で隙間なく埋め尽くされ、冷房の冷気と乗客たちの熱気が混ざり合って息苦しい空気が立ち込めていた。バスはひどい交通渋滞に巻き込まれ、数分ごとに急ブレーキを繰り返していた。私は後方の立ち見エリアの手すりに捕まっていた。……その時、私のすぐ隣の吊り革に捕まっていた若い女性が目に入った。
彼女は二十代後半のOL風の女性で、上品な白のシフォンブラウスに、ウエストがタイトなライトグレーの膝丈フレアスカート、そしてストッキングに黒のパンプスを履いていた。髪は後ろできれいに一本にまとめられ、知的な眼鏡をかけていた。しかし、バスが大きく揺れた瞬間、彼女の完璧なビジネスウーマンの姿に劇的な変化が訪れた。
彼女は持っていたビジネスカバンを両手で強く抱え込み、それを下腹部に強く押し当てたのだ。突然の激しい腹痛が彼女を襲ったらしい。車内の冷房による冷えと、満員バスの凄まじい緊張感が彼女の胃腸に致命的なダメージを与えたのだろう。至近距離で見つめる私には、彼女の額からにじみ出る脂汗が、眼鏡のレンズの裏の瞳を涙で潤ませ、メイクが汗で崩れていく様子がはっきりと見えた。彼女はフレアスカートの下で両脚をきつく交差させ、パンプスの踵を交互に上下させてお尻の括約筋を極限まで締め付けていた。お腹の中でゴロゴロと不快な音が暴れるたびに、彼女の体がビクンと強張る。
「次の停留所まであと五分……この渋滞ではもっとかかる」という焦燥が、彼女の表情を歪ませていた。超満員バスという、途中で降車ボタンを押して降りることすら他人の目が気になり、躊躇われる社会的状況が彼女を縛り付けている。便意の波は容赦なく押し寄せ、彼女はカバンを押さえたまま、がくがくと震える太ももを必死に抑え込んでいた。見てはいけないと思いつつも、彼女の必死の我慢から目が離せなかった。私の心拍数も高まり、喉が激しく渇いた。
バスがようやく停留所に停車し、ドアが開いた瞬間、彼女は周囲の乗客を押し分けるようにして降車したが、お尻をかばう極端な内股の姿勢のまま、這うようにして近くのコンビニのトイレへと消えていった。今でも満員バスのブレーキ音を聞くたびに、あの時の彼女の限界の表情と、漂っていた切迫した空気感を思い出して胸の奥が熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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