アクアラインの暗闇
冷え込みの厳しい12月の夕方5時過ぎ、木更津から川崎へと向かう東京湾アクアラインのトンネル内でのことだ。週末の渋滞でトンネル内は完全に車が停止しており、排気ガスの匂いと車内の暖房の熱気が混ざり合って息苦しい空気が漂っていた。最初の異変は、トンネルの中間地点を過ぎた直後のことだった。下腹部の奥深くで、ズンと重くのしかかるような鈍い便意が静かに頭をもたげた。
「次のパーキングエリアまであと数キロ……しかし渋滞でいつ動くか分からない」と悟った瞬間、私の頭の中は絶望で満たされた。昼食に海ほたるで食べた激辛タンメンが、冷えとこの極度の緊張によって私の胃腸を刺激し、逃げ場のない便意へと変化したのだた。
私はその日、オフィスカジュアルの白いサテンブラウスに、タイトな黒の膝丈スカート、そして素足に黒の5センチヒールパンプスを履いていた。髪はハーフアップにまとめていたが、腹痛による冷や汗で額の生え際からだらだらと汗が流れ落ち、首元の襟元を濡らしていた。メイクは崩れ、ファンデーションが脂汗で浮き上がり、顔面は完全に土気色になり、きつく噛み締めた唇から���赤みが消えて白くなっていた。
トンネル内という、物理的に退路を断たれた閉鎖的な社会的状況が、私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰めていく。
助手席で、私はタイトスカートの下で両脚をきつく交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐えた。パンプスの踵を交互に上下させながら、お尻の括約筋を極限まで締め付ける。お腹の中で暴れ回る泥水のような塊を、紙一枚の厚さの括約筋だけで必死にせき止めているのだ。
便意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、下腹部をギシギシと収縮させた。「あと20分、早く渋滞を抜けて……」と、頭の中で狂ったように秒刻みの計算を繰り返すが、車のエンジンの振動が伝わるたびに心臓が激しく脈打ち、お尻の門が決壊しそうになって全身を硬直させた。
恥ずかしさと、この狭い車内で今にも決壊してしまいそうだという恐怖が頭を支配し、喉がカラカラに渇いた。
ようやく渋滞を抜け、川崎側のパーキングに滑り込んだ瞬間、私は車を飛び出したが、一歩を踏み出す衝撃で決壊しそうになり、その場でビクンと全身を強張らせて動けなくなった。涙目でカバンをお腹に強く押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げ、すり足のような奇妙な歩幅でトイレへと滑り込んだ。便座に座り、お腹の毒素が一気に流れ出た時の、世界が救われたような解放感。今でもアクアラインのトンネルを通るたび、あの時の冷や汗の冷たさと股の奥がすくむような恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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