グランドホステスの限界線
どんよりとした曇り空の10月の金曜日、午後4時半過ぎの羽田空港の搭乗手続きカウンターでのことだ。週末のビジネス客と旅行客でカウンター前はごった返しており、アナウンスや荷物の動く音が響いていた。私はグランドスタッフとして、アクリル板越しに対応を続けていた。最初の異変は、遅延便の対応を始めてから20分が経過した頃だった。下腹部の奥深くで、ゴロゴロと不快な音が鳴る猛烈な腹痛の第一波が走った。
昼食に食べた中華料理が、冷えとこの極度の緊張によって私の胃腸を刺激し、泥水のような塊となって出口へと押し寄せていたのだ。「列の対応が終わるまであと少し……今さら交代を頼める状況ではない」と自分に言い聞かせたが、それが地獄の始まりだた。
私はその日、会社の制服であるネイビーのテーラードジャケットに、タイトな膝丈スカート、そして黒のストッキングに黒の5センチヒールパンプスを履いていた。髪は綺麗にシニヨンにまとめていたが、腹痛による冷や汗で生え際が濡れ、前髪が額にはりつく。メイクは崩れ、顔面は完全に土気色になり、きつく噛み締めた唇は白くなっていた。
カウンター業務という、乗客を前にして絶対に席を外せない極限の社会的状況が、私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰めていく。
私はタイトスカートの下で両脚をきつく交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐えた。パンプスの踵を交互に上下させながら、お尻の括約筋を極限まで締め付ける。声を出して対応するたびにお尻の力が抜けそうになり、説明の声が上ずり、呼吸が荒くなった。便意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、下腹部をギシギシと収縮させた。お腹のゴロゴロという不快な蠕動運動がアクリル板越しに伝わっていないかという恐怖が頭を支配し、心臓は早鐘のように脈打っていた。
恥ずかしさと、多くの乗客の前で今にも決壊してしまいそうだという恐怖が頭を支配し、喉がカラカラに渇いた。
ようやく窓口の交代要員が到着した瞬間、私はお尻をかばう極端な内股の姿勢で裏の事務室へと入った。一歩歩くごとに、お尻の奥で熱い塊が出口を求めて激しく自己主張し、涙目で顔を歪めながら化粧室へ駆け込んだ。個室の便座に座り、お腹の毒素が一気に流れ出た時の圧倒的な解放感。今でも空港のチャイムを聞くたび、あの時の冷や汗と股の奥がすくむような恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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