午前八時五十分の閉鎖空間
ジリジリと照りつける8月の金曜日、午前8時50分過ぎの都内超高層オフィスビルのエレベーター内でのことだ。始業前のラッシュで、エレベーター内は乗客がすし詰め状態になっており、息苦しいほどの熱気が立ち込めていた。私は取引先へのプレゼン資料を抱えて乗り込んだが、突然の停電によって、15階と16階の中間でゴトンと大きな音を立てて停止した。最初の異変は、停止してからわずか数分後、お腹の奥深くでズンと重く響くような鈍い便意の第一波だった。
朝食に食べた油っこいラーメンが、この最悪の緊張状態と重なり、急速に私の胃腸を直撃したのだ。「会社に遅刻するだけでなく、この密室で決壊すれば全てが終わる」という終わりのない絶望の幕開けだた。
私はその日、オフィスカジュアルのベージュのタイトなリブニットワンピに、黒のストッキング、そして7センチヒールの黒パンプスを履いていた。髪はハーフアップに整えていたが、腹痛による脂汗で生え際がじっとりと濡れ、前髪が額に張り付いていく。メイクは崩れ、ファンデーションが皮脂で浮き上がり、マスカラが滲んで目の下が薄暗くなっているのが自覚できた。満員のエレベーターの下で両脚をきつく交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐えた。パンプスの踵を交互にせわしなく上下させながら、お尻の括約筋を極限まで締め付ける。
説明のつかないお腹のゴロゴロという不快な音が周囲に聞こえないかという恐怖が私を襲い、呼吸が荒くなって肩が激しく上下した。お腹の中で暴れ回る泥水のような塊を、極限まで引き締めたお尻の筋肉だけで必死にせき止めているのだ。もしここで途中退席もできない密室という社会的な圧力が、私を壇上に縛り付けていた。
便意の波は容赦なく第二波、第三波と襲いかかり、下腹部をギシギシと収縮させた。「あと10分、あと少し……」と頭の中で秒刻みの計算を繰り返すが、お尻に力を入れると呼吸が止まりそうになり、額から滴る汗が目に入ってしみる。
ドアが開き、救出された瞬間、私はお尻をかばう極端な内股の姿勢で廊下へ出た。一歩歩くごとに、お尻の奥で熱い塊が出口を求めて激しく自己主張し、涙目で顔を歪めながら多目的トイレへ駆け込んだ。個室の便座に座り、お腹の毒素が一気に流れ出た時の圧倒的な解放感は、今でもエレベーターに乗るたびに思い出され、股の奥を熱くさせる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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