朝の通勤ラッシュバスの罠
肌寒い10月の木曜日、午前8時半過ぎの都内路線バスの車内でのことだ。通勤ラッシュで車内は超満員となっており、吊り革を掴む手すら自由に動かせないほどの混雑だった。最初の異変は、渋滞のためバスが道路の途中で緊急停車した瞬間だった。お腹の奥深くで、ゴロゴロと不穏な便意の第一波が走った。
朝食に食べたスパイシーなスープが、この最悪のタイミングで私の胃腸を刺激し、逃げ場のない便意へと変化したのだ。「次の停留所まであと15分……なんとか耐えるしかない」と自分に言い聞かせたが、それは終わりのない地獄への入り口だった。
私はその日、上品な黒のリクルートスーツに、膝丈のタイトスカート、薄手のストッキング、そして黒のビジネスパンプスを履いていた。髪はハーフアップに整えていたが、腹痛による冷や汗で額の生え際が濡れて前髪が額にはりついてしまった。メイクは綺麗に仕上げていたが、お腹の激痛が走るたびに顔から血の気が引き、目の前がチカチカと暗くなるのを感じた。
満員のバス車内という、途中で降りることが極めて困難な社会的状況が、私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰めていく。少しでも動けば周囲に密着している乗客に怪しまれるという恐怖があり、私はバッグを両手で強く抱え込み、それを下腹部に強く押し当てるようにし始めたのだ。
タイトスカートの下で、ストッキングを履いた両脚をこれでもかと密着させ、両膝を左右に激しくもじもじと揺らしながら、パンプスのつま先だけで床を強く踏みしめて耐えた。便意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、下腹部をギシギシと収縮させた。お腹の中の不快な蠕動運動が周囲に聞こえないかという恐怖が頭を支配し、心臓は早鐘のように脈打っていた。額から流れる汗が頬を伝い、丁寧に塗ったチークを溶かしていく。
恥ずかしさと、大勢の乗客の前で粗相をしてしまう恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。
ようやく停留所に滑り込み、ドアが開いた瞬間、私は周囲の目も気にせずにバスから飛び出した。しかし、歩く衝撃で限界に達しそうになり、その場でビクンと全身を強張らせて動けなくなった。涙目でカバンをお腹に強く押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げ、すり足のような奇妙な歩幅で最寄りのトイレへと駆け込んだ。便座に座り、お腹の圧力が一気に解放された瞬間の、頭の芯がとろけるような凄まじい解放感。今でもバスのエンジン音を聞くたび、あの時の冷や汗と恐怖が鮮明によみがえる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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