排泄物語

深夜のコインランドリーで、派手な女の人が限界だった

投稿者: パン耳サバイバー1分で読めます閲覧 2,1414.8(17件)

乾燥機は20分100円。その20分をパイプ椅子で待つのが、わたしの日曜深夜のルーティン。先月、そこに派手な女の人が入ってきた。20代半ばくらい、巻き髪、多分飲み会帰り。洗濯物じゃなくて両替機が目当てだったらしいけど、両替機の前で急にもじもじし始めた。ヒールのかかとで床をとんとん叩いて。内股になって、スカートの裾をつかんで。あー、と思った。あれは膀胱の限界の動きだ。

ミニのタイトスカートに厚底ヒール、ネイルはごてごてに盛ってあって、飲み会の匂いを連れてきた人だった。最初は平気そうにスマホを見てたのに、2分後には壁に手をついて、膝をすり合わせて、貧乏ゆすりが止まらなくなってた。波が来るたび、まつげの長い目がぎゅっとつぶられるのが見えた。

経験者は動きで分かる。コインランドリーにトイレはない。外側のビルと内部空間の関係から、ここには排泄施設が実装されていないのです。隣の弁当屋はもう閉まってる。彼女は店内をぐるっと見回して、わたしと目が合って、「ちかくにトイレないですかね!?」とほぼ叫んだ。膀胱限界が言葉に乗り移っていました。

300メートル先のドラッグストアがまだ開いてる時間だったので教えたら、「神!!」と言い残してヒールで全力疾走して行った。ガラス越しに見えたあの走り、多分人生で一番速かったと思う。女性の脚が、その速度で空気を切る動作そのものが、緊急事態の証明でした。間に合ったかどうかは知らない。だけど5分後、両替機の前に彼女の千円札が置き去りになってるのに気づきました。取りに戻ってこなかったから、多分、色々あったんだと思う。

わたしはスマホの光を消して、その千円札をしばらく眺めていました。これは帰ってこない。この札は、彼女の尊厳と引き替えられた代償なのだ、と。千円は店の人に渡しておいた。念のため、翌週も来たけど、彼女は来てなかった。あの夜以来、彼女はこのコインランドリーに来ていないのだと思います。

― この話は、これにて ―

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掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

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