ウェットスーツの中の小事情、海の上のリアルを語るっす
最初に謝っとくっす。世のサーファーの9割はウェットの中でしてます。すんません。でもこれ、やってみないと分かんない事情があるんすよ。冬の海、水温15度、沖で波待ち1時間。体は冷える、朝コーヒー飲んでる、そりゃ来るっすよね。で、岸まで戻ってトイレ行くと往復20分、その間にいいセットが入る。分かります、その焦燥感。
いや、自分も最初の頃は我慢してたんすよ。第一波は「まだいける」で流せる。けど冷たい海に浸かってると第二波までが早いんす。下っ腹がきゅーっと重くなって、パドルの姿勢がつらくなって、波待ちどころか波乗りに集中できなくなる。第三波が来たら、もう板の上で内もも締めて祈るだけっす。あの状態でいいセット来ても、テイクオフした瞬間に終わるんで意味ないんすよ。
だから沖で、波待ちしながら、そのまま。ウェットの中が一瞬あったかくなって、すぐ海水と入れ替わって冷える。この瞬間だけはちょっとした温泉っす。デカい声じゃ言えないけど、隣でぷかぷかしてる仲間も大体同じタイミングで無言になるんで、お互い様ってやつっす。呼吸音だけが聞こえるあの瞬間、何か儀式的な沈黙があります。ウェットと海と体温と排泄が一体化する瞬間。
ただし大きい方は別っす。あれだけは絶対に岸に戻るのがサーファーの掟。一回だけ、腹壊してるのに欲張って入った先輩が、波に巻かれた拍子にやらかして、そのまま車まで無言で歩いてったのを見たことあるっす。ウェット脱ぐまでの距離が、人生で一番長く感じられたんだべな。
ウェット、結局買い替えてました。海はでかいけど、人間の限界は意外と小さいっすよ。あの先輩の濡れたウェットで無言で歩く背中、あれは海で一番デカい教訓だったっす。心臓に悪い思い出っす。潮に身を任せることと、限界に抗うことは別の話で、でも時々それが混じるんですよ。サーファーならではの、その葛藤がここにあるっす。今日も冬の海のどこかで、誰かが波待ちしながら無言になってるはずっす。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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