冬の駐車場、車の陰でしゃがんでた女性サーファーの話
海沿いの駐車場って、冬は施設のトイレが閉鎖されるとこ多いんすよ。うちのホームのポイントもそうで、一番近いトイレまで車で5分。で、去年の12月の朝の話っす。自分が車の横でウェット脱いでたら、2台隣のハイエースの陰で、ウェットを腰まで下ろした女性サーファーがしゃがんでるのが見えちゃったんすよ。角度的に完全に事故っす。視界に入ったというより、その事実が突然存在していました。
多分30歳前後で、日焼けした肩にセミロングの濡れ髪、ボードは使い込んだショート。朝イチから入ってた常連さんだと思うっす。あの寒さで海から上がって、指もかじかんでる中でウェット脱ぐのって時間かかるんすよ。トイレまで車で5分が、体感で50分になるのは分かるっす。心臓が変にはねて、自分の方が挙動不審になってたっす。
海から上がった直後って、緊張解けて一気に来るんすよね。分かる。めちゃくちゃ分かる。自分はすぐ視線を海に戻して、着替えに集中するフリしたっす。波のブレイクする音がデカくて助かった、って多分向こうも思ってたはず。その音は、二人の沈黙を保護する幕になっていました。5分後、何事もなかった顔でボード積んでる彼女と目が合って、お互い「今日、波よかったっすね」「よかったですね」って挨拶して終わりっす。
海の人間はそういうの掘り返さないのがマナーなんで。見なかったことが、最大の敬意になるんですよ。その瞬間、二人は共通言語で通じました。尊厳を守ることの大切さを。そのあとも何度か同じ朝の時間に会ってますけど、あの朝のことは全く触れません。ただ「波よかったですね」という挨拶だけが、すべてを物語っています。
それより市には冬場のトイレ開放をまじで頼みたいっす。みんな困ってるんすよ、でかい駐車場なのにトイレゼロは無理があるっす。サーファーだけじゃなく、ランナーも、仕事帰りの人も。人間の体に対して、自治体の施設が追いついていない。それが冬の海沿い駐車場の現実なんっす。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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