排泄物語

キャンプ場のトイレが凍結して全員野外派になった夜

投稿者: ハイエース万年床1分で読めます閲覧 1.1万4.4(57件)

1月の山あいのキャンプ場。管理人なしの無料サイト。着いたらトイレの水道が凍結してた。貼り紙一枚。「凍結のため使用禁止」。ドアには南京錠。逃げ場なし。山を下りて最寄りのコンビニまで車で20分。夜中に往復する道じゃない。

利用者はおれ含めて4組。ソロの女性2人と若い夫婦。夜、焚き火してたらソロの1人が声をかけてきた。30代くらいの、装備のしっかりした人だった。「トイレ、どうします」。深刻な顔だった。全員集合して会議になった。焚き火を囲んで、大人4人が真顔でトイレの話をした。

結論は単純。男は林の奥、女性陣には一番近い岩場を譲る。持ち帰り厳守。紙は各自。以上。決まってしまえばあっさりしたもんだった。夫婦の旦那が「ランタンは消していきましょう」と言った。明かりがあると却って目立つ。全員が妙に納得した。

夜が更けて、酒と焚き火の茶が効いてきた。おれも催した。小の方。最初の尿意は焚き火の前でやり過ごした。寒くて出たくなかった。だが二度目の波は誤魔化せなかった。膀胱ってのは氷点下だと強気になる。三度目の波は薪をくべてる最中に来た。腰にずんと来るやつだ。観念して林に入った。

月明かりで自分の息が白いのが見えた。足元の霜が鳴った。済ませてる間、妙に静かで、遠くで岩場の方から誰かの気配がした。石を踏む音。衣擦れ。お互い気づいたが、距離を取って知らんふりした。それが礼儀ってもんだ。

テントに戻る途中、岩場の方から戻ってくる影とすれ違いそうになって、お互い無言でルートを変えた。笑いそうになったが堪えた。向こうも多分堪えてた。月夜の妙な連帯感だった。

朝、全員が何事もなかった顔で撤収した。夫婦の奥さんが「いいキャンプ場でしたね」と言って、全員少し笑った。トイレのないキャンプ場で人は連帯する。変な話だが、いい夜だった。駐車所で見送り合って解散した。あの凍結の貼り紙と焚き火の匂い、今も忘れない。

― この話は、これにて ―

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掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

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