仕込み中のパートさんを襲った便意と鍵のかかった店のトイレ
これはうちの店の話だ。昼の仕込みと片ずけは俺とパートの啓子さん(仮名、40代の主婦)の2人で回してんだけどよ、去年の夏のことだ。あの暑さ、異常だったじゃねえか。啓子さんが野菜の下処理やってる最中に、急に手が止まってな。「大将、ちょっとお手洗い」って小走りで奥さ行ったんだが、すぐ戻ってきた。顔が白えんだ。真っ白。
朝掃除したバイトが内側の鍵を半端に閉めたまま外から閉めてやがって、開かねえんだと。俺がドライバー探して外そうとしたけどよ、こういう時に限って見つからねえ。その間、啓子さんは調理場の隅で柱につかまって、膝すり合わせて、「大将急いで、ほんとに急いて」って声が段々小さくなってく。額に汗が浮いてんのが遠目にも分かった。こめかみが脈打ってんのも見えた。前の晩の冷たいもんが当たったらしい。
ドライバーが見つからねえんで、俺は判断した。本当に。「隣の喫茶店行け!マスターに俺の名前言え!」ってな。啓子さん、サンダルのまま弾丸みてえに飛び出してったぜ。エプロンの紐ほどきながら走ってた。あれは間に合うか五分五分の走りだったじゃねえか。足元がふらついてた。
俺とバイト、ドライバー探してた。5分。10分。15分。長い。啓子さんのこと心配だったけど、電話するわけにもいかん。隣の喫茶店のマスターにはお世話になってるし、信頼してる。30分後、生まれ変わった顔で戻ってきた啓子さんは「大将、この件は墓場までよ」って言ってたけどよ、こうして書いてる俺は地獄行きだな。本当に。
バイトにはドライバーの使い方より鍵の閉め方を教えたぜ。重要度は段違いだった。喫茶店のマスターには翌日ビール1ケース持ってったぜ。今でも通う。それ以来、うちのバイト教育は変わった。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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