国道4号バイパス、ガードレールの向こうにしゃがむ女
冬の栃木だった。午前3時。国道4号を北へ走っていた。信号で止まった。ふとガードレールの外に白いものが見えた。周囲に民家の灯りもない、真っ暗な区間だった。道路標識には「次の立ち寄り施設まで47km」と書いてある。
ハザードを焚いた乗用車。その陰に女がしゃがみ込んでいた。コートの裾を持ち上げ、身を縮めるような姿勢だった。よほど切羽詰まっていたのだろう、車を降りてすぐの位置だった。これ以上は見ると分かることになる、その一歩手前の距離感だ。
30代くらいのコート姿。車の陰に隠れたつもりなのだろう。だがトラックの座席は高い。上から丸見えだった。彼女はうつむき加減で、両膝をぴったり閉じるようにしてしゃがんでいた。肩が張り詰め、手が何かに必死に掴まっている。
見るつもりはなくても見えてしまう。アスファルトから湯気が立っていた。凍える夜だった。彼女の肩が小刻みに震えているのが分かった。寒さのせいか、それとも別の理由か。息が白く上がっているのが、ヘッドライトの光の中ではっきり見えた。彼女の顔は下を向いたままで、世界から隔絶されたような姿勢だった。限界を超えた人間が取る、最後の抵抗の形。
女はこちらのライトに気づいて、慌てて立ち上がった。裾を直す手つきが妙に慌ただしかった。振り返ることもせず、そのまま車に駆け込むように戻っていった。ドアを閉める音がやけに大きく響いた。信号が変わった。自分は前を向いて発進した。それだけの話だ。だがこの手の場面は以外に多い。
国道沿いの24時間の店は年々減った。深夜にトイレを借りられる場所も減った。女一人なら、なおさら選択肢がない。責める気にはならん。むしろよくぞ耐えたと思う。ただ一つ言わせてもらえば、車の陰の選び方が下手だった。トラックから見えない側というものがある。乗用車の目線と大型車の目線は、高さがまるで違う。長距離乗りからの、せめてもの助言だ。あの湯気の白さだけは、今でも目に焼き付いている。その瞬間の彼女の必死さが、深夜の凍える国道に刻まれたような感覚がある。
― この話は、これにて ―
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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