排泄物語

北海道行き深夜フェリー、大浴場前で膝をついた女性を見た夜

投稿者: 峠の自販機2分で読めます閲覧 2,3084.3(9件)

毎年夏は北海道へ渡る。新潟発小樽行きのフェリー、あれは走り屋の甲板付き宿だ。昼行きより安いし、景色も悪くない。事件は去年の便で起きた。

出航前、乗船口の待合所で海鮮丼と生ビールのセットを流し込んだのが、後から思えば全ての伏線だった。エビもカニも新鮮。生ビールで喉潤す。ああ、北海道だ。その雰囲気に酔った。出航して3時間、23時ごろ。俺は大浴場で汗を流し、廊下の自販機で水を買っていた。

そこへ、同じ乗船口で見かけた若い女性(20代半ば、パーカーにハーフパンツ姿、茶色く染めた髪を無造作にまとめていた)が、妙な歩き方で通りかかった。歩幅が異常に狭い。額に脂汗が浮き、片手をそっと腹に添えている。あれは膀胱ではない、腸だ。長年のツーリングで培った目がそう告げた。フェリーの船酔いと、海鮮の重さの組み合わせ。あの歩き方は見たことある。

彼女は大浴場入口脇の女子トイレへ向かった。だが無情にも「清掃中」の立て看板。彼女はその場で膝から崩れそうになり、壁に手をついた。うめき声が廊下に漏れた。次のトイレは階段を上がった2デッキ上だ。あそこまで約2分。けどその2分が地獄だ。彼女の脚が内側に寄り、もじつくのが見えて、こちらまで息が詰まった。

船体の微かな揺れが、彼女の顔を余計に青くしていくのが分かった。フェリーの揺れ。それは容赦がない。彼女の足が踏み出す度に、小さく体が揺れる。自分で制御できない揺れ。それが最悪なんだ。

俺は思わず「エレベーターの方が早いぞ、その角だ」と声をかけていた。彼女は言葉も返さず、カーヴを曲がる寸前のような前傾姿勢でエレベーターへ消えた。扉が閉まる直前、彼女が小さく身をよじったのが見えた。間に合ったかどうかは知らん。船の中の出来事だからな。

だが翌朝、小樽の下船待機列で目が合った彼女は、深々と頭を下げてきた。安堵と気まずさの混じった顔だった。間に合ったのだろう。フェリーの飯は美味いが、乗船前の海鮮丼と生ビールには気をつけることだ。あの夜の廊下の静けさは、今でも妙に耳に残っている。次の乗船では俺も控えめにしておくつもりだ。下船後、彼女は連れの友人たちに何も気づかれた様子もなく、笑いながら車に乗り込んでいった。それでいいと思う。誰も知らない。それが最高だ。

― この話は、これにて ―

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掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

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