排泄物語

脱衣所で間に合わなかった常連のお客様と、無言の連携プレーの記録

投稿者: ロッカー113番1分で読めます閲覧 6604.0(3件)

スーパー銭湯の受付をしております。本日は守秘義務に触れない範囲で、脱衣所での出来事をお話しさせていただきます。平日の14時台は、ご年配のお客様が中心のゆったりした時間帯でございます。館内は静かで、湯気の匂いだけがゆったりと漂う時間帯でもございます。

その日、女湯の脱衣所から従業員呼び出しのブザーが鳴りました。駆けつけますと、常連の70代のお客さ様が、ロッカー前で立ち尽くしておられました。いつも品よく髪をセットしていらっしゃる、上品な奥様風の方でございます。いつもは背筋を伸ばして堂々と歩かれる方だけに、その日のうつむいた姿には胸が痛みました。

足元には水たまり。お風呂上がりのお身体を拭いて、お手洗いに行こうとした矢先に間に合わなかったとのことでした。湯上がりって、温まって緊張がゆるむのか、急に来るらしいんです。その時その瞬間に。お客様は真っ赤なお顔で、湯気の残る肌のまま「ごめんなさいね、ごめんなさいね」と繰り返されるので、私は「お怪我がなくてよかったです、床は滑りやすいので私どもがすぐ拭きますから」とだけ申し上げて、他のお客様の視線をさりげなく遮る位置に立ちました。指先が小さく震えていらっしゃるのが見えて、私まで息を詰めておりました。

声を震わせながら何度も謝られるお姿に、こちらまで胸が締め付けられる思いでした。年の重ね方って、こういう時に出るんだなって思いました。同僚が無言でモップと交換用のタオルを持ってきてくれて、3分で原状復帰。この連携の速さだけは日本一の店舗だと自負しております。

お客様はその後もいつも通り通ってくださっています。ロッカーの前を通るたび、少しだけ目が合う私たちの間に、言葉にしない了解があるように感じます。それが一番うれしいです。この仕事を続けていて良かったと思う瞬間でもございます。あの日の湯気の匂いと水音は、今でもふとした時に思い出します。

― この話は、これにて ―

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掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。

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