学祭あけの朝、中庭の植え込みでしゃがんでた4年生
学園祭の翌朝って、キャンパスがひどいことになってるんだよなあ。ゴミと看板と、たまに芝生で寝てる学生。あの独特の朝の空気、8年やっててもまだ慣れないんだよなあ。異臭と解放感が混在した、なんともいえない雰囲気があるんだ。
去年の11月3日、片付けの応援で朝6時半に出勤した時の話。まだ薄暗くて、太陽は建物の向こう側、空は灰色のグラデーション。購買の鍵を開けにいく途中、中庭のツツジの植え込みの奥で、ガサガサって音がしてさ。猫かカラスだろうと思って、覗きこむ気もなく通りかかったんだよ。朝陽が当たり始めた時間で、空気が少しずつ冷たさを和らげてた。
そしたら、打ち上げ帰りらしいサークルの女の子が、スカートの裾を両手で押さえてしゃがんでる真っ最中だったんだよなあ。4年生だって後で言ってた、22か23歳。長い髪を一つに束ねて、化粧が少し崩れてて、いかにも徹夜明けの色気があった。まぶたが少し腫れてるようにも見えたし、頬もピンク色というより赤みが強かった。手で押さえてるスカートは紺色で、足元には誰かのシャツが脱ぎ捨ててあるのも見えた。
シャーって音まではっきり聞こえて、こっちが慌てて目をそらした。頬が熱くなるのがわかった。足がその場に釘付けになって、一瞬、動けなかった。心臓の音が普通じゃない速さで鳴ってた。向こうも気づいて「すいませんすいません、トイレ全部閉まってて」って半泣きの声でさ。膝が震えてるのが遠目にもわかった。髪を押さえてる手の関節も、微かに震えてるような気がしたんだよなあ。
まあ実際、学祭の翌朝は防犯で建物ぜんぶ施錠なんだよ。責められないんだよなあ。その子も、朝帰りの途中で急に来たんだと思うんだ。我慢の限界を越えてしまった悲劇。小走りの足取りで、ツツジの裏を選ぶしかなかったんだろう。俺は何も見てないことにして購買を開けて、その子が後から買いにきたポカリをこっそり10円まけといた。せこい優しさだけど、それが精一杯だったんだよなあ。
あの子、レジで目も合わせずに「ありがとうございます」って小声で言って逃げるように出てった。髪が肩の上まであったから、そのせいで年代より大人っぽく見えてたんだけど、その時は本当に困った学生さんに見えたんだよ。今でも11月の朝、ツツジの前を通るとあの音が耳の奥に蘇るんだよなあ。季節が季節だから、忘れようとしても思い出すのさ。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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