華やかな立食パーティーの陰で
新緑の美しい5月の夕方6時過ぎ、都内の一流ホテルの宴会場で行われたビジネスパートナーシップ設立の立食パーティーでのことだ。シャンデリアが眩しく輝く会場は、ドレスアップした男女の歓声とグラスの触れ合う音で満ちていた。私は会場の隅でビールグラスを傾けながら、ふとステージ近くの案内板の前に立つ女性に目を奪われた。……その時、取引先の広報担当として知られる上品な女性が視界に入った。
彼女はデコルテが美しく開いた黒いレースのコクーンワンピースに、真っ赤なエナメルの8センチピンヒール、首元には大粒のゴールドパールのネックレスを身に纏っていた。髪は綺麗に夜会巻きにまとめられていたが、会場の熱気と彼女自身の焦りのせいか、額やデコルテには大粒の汗が滲み、ファンデーションが脂汗でじわじわとヨレていた。イヤリングが不自然に揺れている。彼女の右手はシャンパングラスを強く握りしめており、左手はドレスの脇を強く握りしめ、指先が白く強張っていた。
彼女の脚は、ストッキングを履いた内ももをこれでもかと密着させ、両膝を限界まで内側に折り曲げていた。ヒールのつま先に極端な荷重がかかっているらしく、足元が小刻みにがくがくと震え、床にヒールがカチカチと微小な音を立てていた。冷たい白ワインを何杯も口にした後に、取引先のVIPによる長い祝辞スピーチが始まってしまったため、彼女は逃げ場のない尿意に捕らえられていたのだ。 「あと少し……スピーチが終わるまで……」と、彼女の薄い唇は噛み締められ、血の気が失せていた。スピーチの最中に入り口から最も遠いこの場所から退席することは極めて不作法とみなされる。その社会的な檻が彼女の足をその場に縫い止めていた。
尿意の波が押し寄せるたび、彼女は「っ、ふう……」と熱い吐息を漏らし、腰をわずかに落としてお腹を抱え込むようにして必死に耐えていた。 見てはいけないと思つつも、彼女の細い太ももが限界の緊張でがくがくと震え、ドレスの裾が不自然に揺れる様子から目が離せなかった。私の心臓はバクバクと激しく脈打ち、喉がカラカラに渇いた。彼女の美しい顔は尿意の激痛で歪み、涙が目尻からにじんでいた。
スピーチが終わり、拍手が沸き起こった瞬間、彼女はグラスを近くのテーブルに置くと同時に、片手で下腹部を強く押さえ、内股のまま這うようにしてロビーの化粧室へと駆け込んでいった。今でも立食パーティーのグラスの音を聞くたび、あの時の彼女の限界の背中と、漂っていた切迫した空気感を思い出して耳の奥が熱くなる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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