湖上遊覧船の逃げ場なき波
新緑の美しい5月の午後2時前、私は観光地の湖を一周する遊覧船の展望デッキにいた。爽やかな風が吹き抜ける中、周囲の観光客は美しい景色を撮影していた。最初の異変は、出港してから20分ほど経った頃、下腹部にツンと走った明確な尿意だった。 乗船直前に冷たいお茶を一気飲みしたことが、この爽やかな風の中で仇となったのだ。
私はその日、薄ピンクの長袖ニットに、白いデニムミニスカート、そしてフラットなスリッポンシューズを履いていた。髪はハーフアップにまとめていたが、尿意の焦りによる冷や汗で額の生え際が濡れ、前髪が額にはりついてしまった。船内のトイレは故障中で「次の港まで使用不可」の貼り紙がされており、港に戻るまであと30分以上かかるという状況だった。私の顔からは完全に血の気が引き、メイクが崩れて目の周りがヨレているのが分かった。両手で船の手すりを強く握りしめ、下腹部を手すりに押し当てるようにして必死に圧迫していた。
スカートの下の脚は、内ももをぎゅっと擦り合わせ、両膝を限界まで密着させていた。スリッポンのつま先に極端な荷重がかかっているらしく、足首を不自然に交差させ、がくがくと震える足を交互に動かしていた。 「あと、あと20分で着くの? お願いだから早く戻って……」 スマートフォンの地図アプリで現在地を何度も確認し、焦燥のなかで無益な時間計算を繰り返した。周囲の観光客が楽しげに談笑している。その中で一人、限界を迎えているという社会的恥かしさが私を追い詰めていた。
尿意の第二波が去ったのも束の間、より狂暴な第三波が押し寄せたとき、私は思わず「くっ……」と声を漏らしそうになった。下腹部を走るズキズキとした激痛に耐えかねて、私はデッキの上で何度も腰を浮かせ、背筋を限界まで反らせて息を整えた。恥ずかしさと、遊覧船の中で今にも漏れ出してしまいそうだという恐怖が頭を真っ白に染め上げ、心臓は早鐘のように脈打っていた。耳の奥が熱くなり、自分の荒い呼吸音だけが大きく聞こえる。
船がようやく港に滑り込み、桟橋が架けられた瞬間、私は飛び出したが、その脚はがくがくと震えており、内股のまま這うようにして待合室の女子トイレへと消えていった。すべてを解放した時の天国のような心地よさ。今でも波の音を聞くたび、あの時の冷たい汗と、股の奥がキュンとすくむ焦燥感を思い出して胸が熱くなる。
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