密閉された昇降機
肌寒い10月の午後6時過ぎ、私は得意先との会議を終え、オフィスビルのエレベーターに乗っていた。突然、「ガタン!」という大きな衝撃音とともにエレベーターが停止し、照明が非常灯に切り替わった。最初の異変は、エレベーターが完全に停止してから10分ほど経った頃だった。下腹部の奥深くがギューッと雑巾を絞るように激しく収縮し、冷たい汗が背中を一気に駆け下りた。会議前に食べたコンビニの冷たいおおにぎりと緑茶が、この閉鎖空間で私の胃腸を激しく刺激し始めたのだ。
私はその日、グレーのビジネススーツに、白いシャツ、そして黒のパンプスを履いていた。髪は後ろで丁寧なお団子にまとめていたが、腹痛による冷や汗で額の生え際が濡れ、前髪が額にはりついてしまった。メイクはエレベーター内の熱気と腸内の激痛のせいで崩れ去り、丁寧に施したファンデーションが脂汗で浮き上がっていた。スマホを握る右手は、手汗で滑りそうになり、指先がカタカタと震えていた。
エレベーターには私の他に誰も乗っておらず、防犯カメラが私を見つめている。 「あと、あと何分で救助が来るの? お願いだから早く動いて……」 非常ボタンで管理室に連絡し、焦燥のなかで無益な救助時間の計算を繰り返した。監視カメラ越しに自分の限界の姿を見られているという社会的恥ずかしさが、私をさらに追い詰めていた。
便意の第二波が去ったのも束の間、より狂暴な第三波が押し寄せたとき、私は思わず「くっ……」と声を漏らし、エレベーターの壁に背中を強く押し当てた。スラックスの中でお尻の括約筋を極限まで締め上げ、両脚を交差させてピンと伸ばした姿勢を維持しようとしたが、パンプスを履いた足元は小刻みにがくがくと震えていた。顔面は完全に土気色になり、きつく噛み締めた唇からは赤みが消えて白くなっていた。
救助隊がドアをこじ開けた瞬間、私は救助された喜びよりも、不自然にお尻をかばう内股の歩き方でロビーの多目的トイレへと滑り込んだ。便座に座り、すべてを排出した瞬間の、魂が抜けるような熱い解放感。今でもエレベーターの警告音を聞くたび、あの時の冷や汗と股の奥がすくむような恐怖を思い出す。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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