悪天候による機内待機
雪が降り積もる2月の朝8時半、私は通勤ラッシュ時の満員電車に揺られていた。周囲の乗客と肩を寄せ合い、密閉された車内は不快な熱気とコートの匂いで満ちていた。最初の異変は、急行停車駅を過ぎて地下トンネルに入った直後だった。下腹部に氷を押し当てられたような鈍痛が走り、次の瞬間、激しい熱を帯びた尿意が私の内臓を掴み上げた。朝食に食べたヨーグルトと冷たい紅茶が、この最悪のタイミングで暴れ出したのだ。
私はその日、黒いビジネススーツのタイトスカートに、薄手のストッキングとハルタのローファーを穿いていた。髪は後ろでハーフアップに結んでいたが、冷や汗で首元が濡れ、せっかくのメイクがじわじわと崩れていくのが分かった。吊り革を握る私の両手は、緊張と恐怖で白くなり、指先がカタカタと震えていた。「お願い、早く動いて……」と私の祈りも虚しく、電車は「急病人救護のため」というアナウンスとともに、トンネルの途中で急停車してしまった。
閉じ込められた満員電車という逃げ場のない檻の中で、私は一人、狂暴な尿意の波と対峙することになった。額からは大粒の汗が流れ落ち、首元のマフラーが不自然に肌を刺激する。尿意の波は容赦なく押し寄せる。第二波、第三波が襲ってくるたび、私は吊り革を握る右手に限界の力を込め、吊り下がった姿勢のままお尻を硬直させた。タイトスカートの中で、私は両脚を交差させ、内ももをギリギリと擦り合わせた。ストッキングを履いた膝が笑い、周囲の人に自分の震えが伝わっているのではないかという社会的な恐怖が、私の心拍数を異常に跳ね上げた。
「あと一駅だけ走ってくれればいいのに……」と頭の中で電車の運行システムに対する怒りと、神への卑屈な祈りが交錯する。顔からは完全に血の気が失せ、激痛の波が来るたびに体が勝手にピクンと跳ね、呼吸が浅く荒くなっていく。自分の心臓の音が耳元でドラムのように鳴り響き、意識が遠のきそうになる。「っ、くぅ……!」と声を出さないように歯を食いしばるが、あまりの尿意に奥歯が軋んだ。もしこの満員電車の中で漏らしてしまったら、私の人生は完全に終わる。その破滅的な結末への恐怖と、限界を締め続ける膀胱の摩擦熱のような感覚が、頭を真っ白に染め上げていった。
約10分という永遠のような停止時間の後、電車がゆっくりと動き出した。次の駅に着いた瞬間、私は開いたドアから弾き出され、ホームの階だんを駆け上がって女子トイレへと滑り込んだ。個室の鍵をかけた時の、あの魂が抜けるような解放感は、今でも雪の朝に電車の非常ブレーキの音を聞くたびに思い出され、股の奥がキュンと引き締まる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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