高速バスの車窓と決壊寸前の水門
冬の深夜一時、私は東京から大阪に向かう長距離夜行バスの座席にいた。車内はすでに消灯されており、カーテンが閉め切られた暗闇の中で、乗客たちの寝息と規則的なエンジン音だけが響いていた。最初の異変は、乗車してから二時間が経過した頃だった。
足元から忍び寄る底冷えのせいか、下腹部にツンとした鋭い尿意が走りぬけたのだ。「次のサービスエリアでの休憩まで、あと一時間はあります」と、乗車時に運転手が言っていた言葉が呪いのように頭の中で繰り返される。
私はリクライニングを倒したシートの上で、寝返りを打つふりをしながら身を捩った。しかし、どんな姿勢をとっても膀胱を圧迫する感覚から逃れることはできない。波のように押し寄せる尿意は、時間が経つにつれて徐々にその間隔を狭め、小康状態を許さなくなっていった。私はジーンズの上から両手で股間を強く押さえ、内ももをこれでもかと密着させて耐えた。冷たい汗が全身から噴き出し、長袖のニットがじっとりと張り付く。
「あと四十分……いや、三十分……」と、暗闇の中で時間だけを数え続ける。
「神様、どうか時間を進めてください。あるいは、尿意を麻痺させてください」と心の中で無意味な祈りを捧げ、スマートフォンの画面を何度も点灯させて時間を確認する。一分がまる一時間のように感じられた。車内は完全に静まり返っており、少しでも大きな動きをすれば、隣の席の乗客や周囲の人々に異変がバレてしまう。その社会的な檻が、私を肉体的にも精神的にもさらに追い詰めていった。
膀胱はすでにパンパンに膨れ上がり、決壊寸前の水風船のようにお腹の奥でズキズキと熱い痛みを放っていた。少しでもお腹に力が入れば、その瞬間に限界を超えて温かい尿が溢れ出してしまいそうだった。
ついに我慢の限界が訪れた。次の波が来た瞬間、私は「ううっ……」と喉の奥で声を漏らしそうになり、全身の筋肉を硬直させた。つま先を限界まで伸ばし、お尻をシートから少し浮かせるようにして逃げ場を作る。しかし、その動きすら膀胱を刺激し、温かいものが一瞬、溢れそうになって鳥肌が立った。恥ざかしさと恐怖で頭の中がカアッと熱くなり、心臓の鼓動が耳の奥でうるさく響く。
ようやくバスの速度が落ち、サービスエリアの黄色い街灯が車内に差し込んできた。バスが完全に停止する前に私は席を立ち、暗い通路をヨロヨロとよろめきながら前へ進んだ。運転手がドアを開けると同時に、私は外の冷たい空気の中に飛び出し、走ることもできず、内股の奇妙な歩幅でトイレへと急いだ。個室に入り、便座に腰を下ろして一気に解放された瞬間、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。今でも深夜のバスに乗るたび、股の奥が疼く恐怖がよみがえる。
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※ 掲載されている話は、読者投稿・創作をもとにした読み物(フィクション)です。実在の人物・団体・場所とは一切関係ありません。
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