冬の温室行列、狂った計算
凍てつくような1月の金曜日、午前11時すぎの植物園の温室ゲート前でのことだ。外は冷たい雪が舞っており、手すりには薄っすらと氷が張っていた。私は友人たちと温室に入るための行列に並んでいたが、冷気で足元からじわじわと体温が奪われていた。最初の異変は、並び始めて20分が経過した頃に訪れた。
下腹部の奥深くで、ズンと重い地鳴りのような便意が走った。温室の入り口まであと30分、時間にして約15分。「大丈夫、これくらいなら我慢できる」と自分に言い聞かせたが、それが地獄の底なし沼への入り口だった。
私はその日、ウール混の黒いノーカラーコートに、ダークブラウンのコーデュロイタイトスカート、そして黒の厚手タイツに5センチヒールのショートブーツを合わせていた。髪はハーフアップにしていたが、便意の焦燥感から全身に噴き出した冷や汗で額の髪がベタつき、首元のウールマフラーがじっとりと濡れて皮膚にはりつく。ファンデーションは汗で浮き上がり、マスカラが滲んでパンダのようになっているのが自覚できた。
行列の密室という、途中で列を抜けることも動くことも困難な社会的状況が、私を肉体的にも精神的にも限界へと追い詰めていく。揺れる列の中で人々と肩がぶつかるたびに、胃腸へ激しい刺激が走り、私は思わず「ひっ……」と声を漏らしそうになり、きつく唇を噛み締めた。
タイツの中で両腿をぎゅっと交差させ、内もも同士を強く押し付け合って耐える。しかし、便意の波は容赦なく第二波、第三波と押し寄せ、下腹部は決壊寸前のダムのようになり、お腹の奥が痛む。
「あと3分、あと数メートル……」と、頭の中で狂ったように秒刻みの計算を繰り返すが、列の動きが遅くなるたびに心臓が激しく脈打ち、焦りで頭が真っ白になった。
恥ざかしさと、この大衆の面前で今にも漏らしてしまいそうだという恐怖が混ざり合い、耳の奥が熱くなって喉がカラカラに渇いた。
ようやく受付に滑り込み、私は周囲の友人に声をかけて列を出たが、一歩を踏み出す衝撃で括約筋が限界を迎えずにはいられなかった。涙目でカバンを下腹部に強く押し当て、がくがくと震える膝を内側に折り曲げ、すり足のような奇妙な歩幅でトイレへと急いだ。
個室の便座に滑り込み、熱い水分が一気に放出された瞬間の、頭の芯がとろけるような凄まじい解放感。今でも植物園の温室を見るたび、あの時の冷や汗の冷たさと、股の奥がキュンと疼く恐怖が鮮明によみがえる。
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